最新記事

ワクチン

ワクチン格差、ワクチン求めて国境を越える人々

2021年5月14日(金)15時30分
冠ゆき

アメリカ・テキサスのワクチン接種センターを訪れる旅行者...... REUTERS/Jose Luis Gonzalez

<新型コロナウイルスのワクチン接種の進捗が、国によって大きな「格差」が生まれている。そのため、ワクチン接種のために国境を越える人々が増加している...... >

世界各地で新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されて、ほぼ半年。国によってその進捗具合には大きな差が生まれている。ワクチン接種が遅れている国の人々の中には、ワクチンを求めて国境を越えるケースが出ている。

カナダからアメリカへ

12月14日ワクチン接種を開始したアメリカでは、すでに47%近くが少なくとも一回はワクチン接種を受けており、35%以上は必要回数の接種を終えている。だが、同じ12月14日にワクチン接種を開始した隣国のカナダでは、一度目の接種を終えた国民の割合こそ41%を超えているが、必要回数の接種を終えたのはたった3.5%に過ぎない。

この状況に危機感を抱くカナダ人も多く、アメリカにワクチン接種に赴く例も出ている。たとえば、CTV Newsは、出張で合衆国を訪れる機会を利用してワクチン接種を受けたカナダ人ビジネスマンのインタビューを報道した。というのも、アメリカでは、居住者でなくてもワクチンを受けられる州が、テキサス、オハイオ、アリゾナ、コロラド、アイオワ、ミネソタなど多数あるからだ(トラベル・デイリーメディア)。

中南米からアメリカへ

同じ目的で中南米からアメリカを目指す人も増えている。現在、メキシコでは必要回数のワクチン接種を完了した人の割合は7.4%、一度でも受けた人の割合が11.1%だし、ペルーではこれが2.2%と4.5%とさらに低い。だが、アメリカでの接種を希望するのは、中南米の接種の進行が遅いことだけが理由ではない。偽ワクチンが押収されたニュースや、必要な時に二度目の接種を受けられない例が相次ぎ、自国のワクチンキャンペーンに不信感を募らせる人が増えたことも大きい。

空の便もこの動きを反映している。アエロメヒコ航空によれば、メキシコと合衆国間の旅客数は3月から4月にかけて35%増加。アメリカン航空も、ここ数か月におけるコロンビア、エクアドル、メキシコなどラテンアメリカ路線の乗客数が急速に伸びている。こうした動きに観光業者も目をつけ、メキシコやアルゼンチンの旅行代理店は、ワクチン接種を含むアメリカ行きパッケージ旅行を扱い始めた(ロイター通信)。

ドイツからロシアに向かう人々

ヨーロッパでも国によるワクチン接種のスピードの違いが見られる。イギリスでは18歳以上の68%が一回接種、35%が2度の接種を終えている。

いっぽう、ドイツでは、ワクチン接種の開始時期は同様に昨年12月にだったが、現在、一回接種が33%、接種完了者が9.6%となっている。このため、ロシアでロシア製ワクチン「スプートニクV」の接種をするために、ロシアに向かう人々も現れている。

Germans travel to Russia for Sputnik V COVID-19 vaccinations | Focus on Europe


いっぽう、ルクセンブルクでは、必要回数のワクチン接種を完了した国民の割合は11パーセント強だ。そこでルクセンブルクの旅行会社が、ワクチン接種ツアーを企画すると4月23日発表。観光とファイザー社ワクチンの接種を組み合わせたこのツアーの行き先は同国から飛行機で2時間の距離だというが、今のところ未公表だ(Luxemburger Wort)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中