中国への頭脳流出は締め付けを強化しても止められない......「千人計画」の知られざる真実
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米中はアメリカを拠点とする優秀な中国系研究者の争奪戦を展開 XINHUA/AFLO
<中国がカネに飽かせて進める人材招致を必要以上に敵視すると、アメリカは優秀な人材を失うことに──。本誌「アメリカ大統領選 中国工作秘録」特集より>
先端技術開発で各国が激しい競争を繰り広げる今、イノベーションの才能がある科学者、技術者、研究者の育成と確保に一国の命運が懸かっていると言っても過言ではない。
中国はそれを痛感している。14億の人口を抱えるこの国は教育・研究に莫大な予算を投じてきたが、最先端の技術開発では今も大半の先進国に後れを取っている。
その証拠に中国本土で研究を行い、ノーベル賞を受賞した科学者はマラリアの治療に道を開いた屠呦呦(トウー・ヨウヨウ)だけだ。中国には世界のトップレベルの大学や研究機関は片手で数えられるほどしかない。航空、半導体、バイオテクノロジーといった重要分野では中国は今もアメリカや日本など先発組の後塵を拝している。
人材不足を補う手っ取り早い方策として中国政府が打ち出したのは国外にいる中国系の人材を呼び戻す計画だ。中国教育省によると、1979年から2018年までに600万人近い中国人が外国の大学・大学院に留学した。行く先は主に欧米諸国で、9割は自費留学だが、中国に戻ってきた人は370万人にすぎない。
外国に留学した人の4割近くが帰ってこないとなると、深刻な「頭脳流出」だ。まずはこれに対処しようと、中国政府は2008年に共産党中央組織部の部長だった李源潮(リー・ユアンチヤオ)をトップに据え、人材確保計画をスタートさせた。これが今や悪名をとどろかせている「千人計画」だ。当初の趣旨は留学先で博士号を取得した後も外国にとどまり、研究職に就いている中国人を呼び戻すことだった。
公式には共産党の中央組織部と政府の人事社会保障省の管轄下にあったこの計画は、2013年に李が国家副主席になり、現場を退いた後も拡大を続けた。人事社会保障省によれば、2017年時点で7000人超の研究者がこの計画に参加。その大半が中国系だ。これ以外に約5万4000人の優秀な人材がさまざまな別のプログラムを通じて中国に招致された(これらのプログラムは権威でも資金力でも「千人計画」に劣る)。
中国政府が資金を提供している「千人計画」は短期・長期のプロジェクトのために科学技術分野の中堅と若手の人材を招致するプログラムで、前述のように当初のターゲットは中国系だったが、計画の拡大に伴い外国人も招致されるようになった。招致枠は4つある。長期と短期のプロジェクトの参加者、外国人の専門家、それに若手の有望株だ。
計画の具体的な成果は不明
応募資格は、55歳未満で外国のトップレベルの大学か研究機関の常勤および上級職、またはそれに準じるポストに就いていること。長期プロジェクトの参加者は3年以上中国で常勤職に就くことになり、短期プロジェクトの参加者は年間に2カ月以上中国に滞在しなければならない。外国人の場合も条件はほぼ同じだが、長期の場合、最低3年間は1年のうち9カ月以上中国で常勤職に就くことが義務付けられる。