フォロワー数1位、中国官製報道のSNS適応成功の裏にあるニュース製作「厨房」とは
組織構成
どの基準で見るかによるが、内部組織はいくつかに分けられている。まずコアになるのは总编调度中心(総合編集指揮センターとでも訳せばいいのだろうか)。ここが総合指揮所になる。毎週月曜午後3時に定例会を開き、とりあげる話題や、記事への評価などを確認する。
そして工作室=媒体。様々なサイトでの投稿の名義であると同時に、それぞれの専門に応じて、各SNSなどにアカウントを持っている。2018年6月段階でサイト上に記載されているのは以下の48。
初期の報道では人民日報の社員であれば元々の担当業務をおろそかにしない範囲で自発的に申請して結成することができる、とある。また、物理的にもこの本部人員だけでなく、国内外の支社の記者もメンバーとなれる。
人民日報系のメディアへの記事提供以外に、こうした工作室の名義で外部むけに記事を執筆する事もある。例えば工作室のひとつである麻辣财经であれば、18年4月に8本の記事を発表し、2本が南海网,人民财经网に転載されている。
工作室の評価はPVや転送数など上記のツールなどで計測された反響によって決まり、それがボーナスなどに反映されるとのこと。新浪などオンラインメディアであればこうした報酬形態が導入されていても驚かないが、半ば公務員のような人民日報の社員にこうした制度が適用されるのは興味深い現象と言えるだろう。
そして現状では多言語化にも対応し、国内外の400以上の媒体、18の言語に対応。また、公式サイトではTwitterやYoutubeへの対応も謳う。
「セントラルキッチン」という名前から、伝えたい情報を媒体に応じて編集(=料理)するという機能が主なのかと思いきや、こうしてみると、組織図通りであれば、完全に独立した媒体運営ができることになる。
マスターシェフは誰なのか
では、この中央厨房を指揮するのはだれなのだろうか。
叶蓁蓁。前述の人民日报媒体技术股份有限公司の総経理である彼は、実は人民日報のオンライン版、人民网の史上最も若い総裁でもある。
彼は1976年生まれ(42歳ということになる)で、大学卒業後同じく有力な党報である光明日報に配属され、のちに人民日報に移り、30歳にして総編集室副主任になり、14年の子会社設立と共に総経理に任命された。彼の人民网総裁就任を紹介する記事を見ると、前任の牛一兵が66年生まれと10歳年上なので、平均よりはかなり若いことがうかがわれる。
基本的には年功序列に近い形になることが多い官僚制の国家における10歳の若返りの理由は、普通に考えればある種の背景があるということになろう。しかし残念ながら彼は北京のジャーナリストの中でも知られた存在ではなく、正確な素性を知ることは叶わなかった。人民日報は新聞である前に党機関であり、つまり彼はジャーナリストというよりは党員・政治家なのだろう。
彼が党のネット上でのアウトプットの戦略すべてをデザインしているかどうかはわからないし、そもそも全体戦略を一人の人間がきちんとデザインしているものかどうかも相当怪しい。しかし彼がかなり若くして高いポジションに就いていること、そしてこうした党メディアの新しい形の実験という重要な意味合いを持つプロジェクトの推進役であることは間違いなく、少なくとも核心人物のひとりではあると思われる。
官製報道は今後、すべて集約管理されるのか?
先日取り上げたように、中央广播电视总台の設立により中央のラジオとテレビは統合され、国務院直属組織(&宣伝部の指導を受ける)となった。广电总局の所轄だった映画もまた、宣伝部が管理するということになっている。
その動きを見ると、今回紹介したインターネットにおける「一括取材&多様なアウトプット」という仕組みづくりは、一見今後さらに拡大して宣伝部に合流し、マスメディア+インターネット、すべてのプラットフォームでの素材共用などの動きにつながっていくようにも思える。
しかし実は人民日報は大部分の党報と違い宣伝部の所属ではなく、その上部機関である共産党中央委員会の直轄であることから、話はそう単純であるとも限らない。
上級機関でのトライアルの後下級機関にも適用していくと読めばいいのか、もしくはそれぞれがそれぞれの考え方で効率化を模索していくのか。今後の流れはわからないが、世界にも稀に見るこの統一化プラットフォームの今後の動きはフォローしていきたいと思っている。
参考・出典(※いずれも主要なもののみ抜粋):
論文・雑誌掲載
陈川 (2016)技术不是媒体融合的门槛----人民日报中央厨房技术平台概览(「新闻与写作」2016年09期)
叶蓁蓁(2016)重新定义媒体----站在全面融合的时代(「 传媒评论」 2016年第一期)
叶蓁蓁(2017)人民日报"中央厨房"有什么不一样(「新闻战线」2017年03期)
李天行, 周婷,贾远方 (2017)人民日报中央厨房 "融媒体工作室"再探媒体融合新模式 (中国记者 2017.01)
叶蓁蓁,盛若蔚(2015) 中央厨房探路融合发展 (「中国报业」 2015.04)
陈国权(2018) 中国媒体"中央厨房"发展报告 (「新闻记者」 2018 第一期)
※なお、上記は最後のものを除きすべて関係者によって書かれている。陈川は人民日报媒体技术股份有限公司CTO。
インターネット
被总书记"点赞"的人民日报"中央厨房",究竟长啥样 上观新闻 2016-03-14
人民日报中央厨房正式上线!如何烹制新闻大餐? 全媒观 全媒派 2016年2月26日
人民日报媒体技术公司总经理叶蓁蓁----人民日报"中央厨房"有什么不一样 搜狐 2017-02-23
探秘人民日报"中央厨房" 人民网-人民日报海外版 2017年01月23日
关于"中央厨房",这四个误解不能有 人民日报中央厨房 2017年09月06日
75后叶蓁蓁任人民网总裁 创新闻网站纪录 新浪综合 2017年12月22日
※当記事は個人ブログからの転載です。
[筆者]
林毅
ライター・研究者
広義のジャーナリズムやプロパガンダをテーマに研究を行う。
Twitter -> @Linyi_China
Blog -> 辺境通信