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「赤ちゃんポスト」で遺体発見のドイツ、注目の「内密出産」とは? 

2017年12月13日(水)18時30分
モーゲンスタン陽子

ドイツでは、2000年に「赤ちゃんポスト」が登場し、さまざまな議論を呼んだ poplasen-iStock

<ドイツでは、親が養育できない子どもを匿名で託せる「赤ちゃんポスト」が、2000年に登場。その後、さまざま議論を呼んだ。今、政府が奨励する「内密出産」とは...>

11月半ば、ドイツ中央部のエアフルト市の病院に設置された「赤ちゃんポスト」で、新生児の遺体が発見された。司法解剖の結果、女児は死産で、生後なんらかの暴力の犠牲になった可能性はないとされたが、身元については不明のままだ(ウェルト)。

ヨーロッパでは12世紀ごろから存在する「赤ちゃんポスト」。それが、望まない妊娠・出産に臨むことになった母親と、生まれてきた子供を救おうとする善意の試みであるのは疑いの余地がないが、出産において母子が医療的サポートを受けられない、あるいは倫理的な問題などから賛否両論がある。

今回の事件を受け、2014年に法制化された「内密出産」がふたたび注目を集めている。

新生児殺害数に改善見られず

中世から続く「赤ちゃんポスト」だが、近代版は2000年に第1号がハンブルクに登場、同年にリューベックとベルリンの病院に設置された。以降ドイツ各地の病院・教会施設に設置され、現存する「赤ちゃんポスト」は60とも100とも言われるが、子供の権利を擁護する国際的な慈善財団Terre des hommesのドイツ支部によると「公式」な数字は発表されていない。2012年のBBCの報道によると、ヨーロッパ全土で約200存在するという。

エアフルト市がその州都であるチューリンゲン州には全部で3つの「赤ちゃんポスト」がある。同州アポルダ病院には設置されていないが、 ヨアヒム・ベヒラー医師が先月末にチューリンガー・アルゲマイネ紙に語ったところによると、(ハンブルクに第1号が設置された)2000年以降、残念ながら新生児の殺害件数には変化が見られず、赤ちゃんポストが効果を発揮しているとは言い難い状況となっているのがその理由の1つようだ。

Terre des hommesによると、2016年にドイツで報告された新生児の死亡事故は14件、うち殺害9件、遺棄され死後に発見されたのが4件、1件は殺害か死産か不明という。2017年には、上半期だけですでに10件が報告された。同団体は「赤ちゃんポスト」や、また従来の「匿名出産」の制度があるにもかかわらず、過去10年で死亡件数の改善は見られないとし、懐疑的な立場を取っている。

子供が親を知る権利

「赤ちゃんポスト」や「匿名出産」の代替案として上記施設や団体、そして政府が奨励するのは、2014年に法制化された「内密出産」だ。母親が個人情報を申告しない「匿名出産」と違い、「内密出産」では母親が個人情報を提供のうえ出産し、家族・高齢者・婦人・青少年省がその情報を保管する。養子縁組手続きの際には仮名を使用できる。

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