最新記事

映画

「動く油絵」を駆使してゴッホの死に迫る異色作

2017年11月17日(金)16時15分
スチュアート・ミラー

125人の画家が描いた6万枚以上のゴッホ風油絵によってつづられる (c)LOVING VINCENT SP.Z O.O/LOVING VINCENT LTD.

<天才画家の人生と最期の日々を解き明かす、長編アニメ『ゴッホ~最期の手紙~』>

フィンセント・ファン・ゴッホは37歳で死去するまでに、革新的な名作を含む2000点以上の絵を残した。彼の死の謎に迫る映画『ゴッホ~最期の手紙~』も革新的な作品。油絵をアニメ化した世界初の試みで、そのために125人の画家が6万2450枚の絵を描いた。それもゴッホの作風に似せて。

このとっぴなアイデアを思い付いたのはポーランドの監督ドロタ・コビエラ。古典絵画を習得し、修士論文のテーマはゴッホで、その後アニメーターになった人物だ。彼女は『ゴッホ』を短編にするつもりだったが、プロデューサー兼共同監督のヒュー・ウェルチマンが長編にすべきだと主張した。

製作会社ブレークスルー・フィルムズの創設者であるウェルチマンは、プロデューサーを務めた『ピーターと狼』で08年にアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞するなどアニメの実績はある。でも「ゴッホについてはほんのわずかしか知らなかった」と言う。「自分の耳を切ったこと、ヒマワリの絵や『星月夜』を描いたこと、あとは精神を病んでいたことくらい」

それがゴッホについて調べるにつれ、「彼の人生、大胆さ、情熱を知って驚いた」。ロンドンの美術館でゴッホの手紙が展示されたときに3時間待ちの行列ができたのを見て、「彼はロックスターだ」と思ったという。

世界の画家が集結して

アニメの製作は気の遠くなるような作業だったが、「最も大変だったのは物語だ」とウェルチマン。「ゴッホの絵と歴史的事実、手紙や手記をつなぎ合わせ、見る人の心をつかむ物語にしなくてはならなかった」

物語は南仏アルルの郵便配達人ジョゼフ・ルーラン(ゴッホの絵のモデルで有名)が息子のアルマンに、ゴッホの残した手紙を託すところから始まる。パリにいるはずのゴッホの弟テオに届けてくれという。なぜゴッホは成功を目前にして自死したのか。アルマンはその真相を探ろうとする。

この映画ではゴッホの絵画94点を使い、35点以上を参考にしている。設定を昼から夜に変えたり、人物を加えたものもある。

ブレークスルーのショーン・ボビットCEOによると、『ジャガイモを食べる人々』など初期の作品は作風が違うので使えなかった。ゴッホが療養していたサン・レミの風景の絵も、この物語でアルマンが訪れるのには無理があるので諦めた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日産、米国でセダンEV2車種の開発計画を中止 需要

ビジネス

トランプ関税で「為替含め市場不安定」、早期見直しを

ワールド

中国は自由貿易を支持する─G20会合で人民銀総裁=

ワールド

世銀、インド成長率予想を6.3%に下方修正 世界的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中