カタルーニャ「殉教戦略」の嘘
州首相を解任されたプッチダモン(中央)はスペインを出国し、ブリュッセルで会見を行った Yves Herman-REUTERS
<中央政府による抑圧を強調することで国際社会の同情を誘う独立派の狙いは成功しそうにない>
カルラス・プッチダモンが打って出たのは、いわば政治的な「殉教戦略」だ。
スペイン北東部のカタルーニャ自治州首相だった彼は10月末に州議会に対し、カタルーニャの独立を宣言する決議案を採択するよう求めた。これに対して中央政府はプッチダモンを解任し、カタルーニャの自治権の一部を停止した。
プッチダモンは、州議会が決議案を採択すれば、中央政府が憲法155条に基づいて、カタルーニャの警察や司法の権限を停止することが分かっていたはずだ。155条が発動されれば、中央政府はプッチダモンと州の閣僚らを訴追することもできる。有罪になれば、プッチダモンは反逆罪で最長30年の禁錮刑に処せられかねない。
だがプッチダモンの強情な「殉教」に、果たして効果はあるのだろうか。その点を疑う理由は数多くある。テロ組織ISIS(自称イスラム国)の自爆テロ犯が実践しているように、殉教とは自らの信念のために究極の犠牲を払う行為だ。政治戦略としての殉教は、そこまでの犠牲は払うことはない。
特にカタルーニャ独立のような無謀にも思えるケースでは、大義の名の下に人々の苦しみや犠牲を増幅させることが主な目的となる。しかしプッチダモンの戦略は、信念に基づく行動というよりは、ひたすら贖罪を祈っているようにしか見えない。
プッチダモンがこの「殉教戦略」で狙っているのは、カタルーニャ独立派の強い独立願望を維持することのようだ。10月1日の住民投票(投票した人の90%が独立を支持したが、投票率は約40%にとどまった)は、スペインとの決別を確実にできなかっただけでなく、裏目に出た可能性さえある。
中央政府の弾圧を期待?
この1カ月でカタルーニャでは、スペインへの愛国心が驚くほど復活している。10月8日には、バルセロナで数十万人が独立反対の抗議デモを展開。独立宣言の翌日にも、「勝利」を祝う独立派をはるかに超える数十万人の人々が、独立に反対するデモを行った。
プッチダモンの殉教戦略の目標には、短期的なものと長期的なものがある。
短期的な目標は、カタルーニャ住民の苦しみを増幅させ、さらにはスペイン政府の権威主義的な本質を見せることで、諸外国がカタルーニャの独立を支持するように仕向けるというもの。そして長期的目標は、カタルーニャの将来の世代を苦しみにさらして、分離独立を求める闘争に順応させることだ。