最新記事
BOOKS

「伝説の事件記者」が保育を学ぶ短大生に...大先輩は新宿の保育園長

2024年12月19日(木)11時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
歌舞伎町一番街

記者時代に馴染みが深かった新宿歌舞伎町の近くにも保育園がある/meguraw645-pixabay

<短大保育学科の入学式で63歳の新入生が思い出したのは、かつて事件記者として歩いた新宿歌舞伎町の近くにある「眠らない街の保育園」のこと>

地下鉄サリン事件をはじめ、殺人、暴力団抗争などを取材し、元警察庁長官の米田壮氏に「事件取材の鬼」と称された元朝日新聞警視庁キャップの緒方健二氏。39年の記者人生を卒業し、2022年、私立東筑紫短期大学の保育学科に入学した。

虐待で子どもが命を落とす事件を捜査していた警察官の「捜査で被害者の無念を晴らすことは出来るけれど、生育環境までは手が回らない」という言葉を胸に、入学式当日を迎えるが......。10代後半の同級生と学業に励んだ日々をまとめた『事件記者、保育士になる』(CCCメディアハウス)では、子どもが被害者にも加害者にもなりうる社会についても考察する。

※全3回の第2回(第1回第3回

◇ ◇ ◇

入学式で落ち着かない

胸の内で呟きつつ固いパイプ椅子に行儀よく、ちんまり座っていました。式は粛々と延々と続きます。

寄る年波には勝てませぬ。かねて悪くしている腰に痛みが生じました。抜かった。格好つけずに腰痛緩和ベルトを装着しておけばよかった。拳でとんとんと叩いても効果なし。

尾籠(びろう)な話で恐縮ながら、コーヒーを朝から5杯も飲んだせいで尿意を催してまいりました。入学するのがいくら保育学科とはいえ、幼児のように挙手して「せんせい、おしっこ」とは言えませぬ。

「勉学精進」を誓い、ずっと歯を食いしばっていたためか部分入れ歯がずれました。いったん外し、装着し直したい。

眼前で起きるすべてを一瞬たりとも見逃すまい。瞬きを極力控えていたため目の乾きも尋常ではありません。愛用の目薬の出番です。スーツの右ポッケにいつも忍ばせています。手を突っ込んで探るも見つからない。指先に触れるのはライターにセブンスター、靴べら、絆創膏、おクスリの入ったパケ(小さなポリ袋)......。

忘れたか。いや、きっとあるはずだ。壇上の学長さんらのありがたいお話を拝聴しながら、ポッケの内容物をひとつずつ出しては入れを繰り返しました。

セブンスターの箱を取り出すと、その下に目薬が隠れていました。この野郎、手間を取らせやがって。

数滴差し終えて周囲を見渡すと、みなさん膝の上に両の拳を乗せ、微動だにしていません。落ち着きのないのは当方ばかり、不明を深く恥じるのでした。

カルチャー
手塚治虫「火の鳥」展 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中