最新記事

核兵器

北朝鮮から始まる東アジアの核ドミノ

2017年10月31日(火)18時00分
カルロス・バレステロス

北朝鮮が核武装すれば韓国も日本もその他の周辺諸国も後を追う KCNA/REUTERS

<日本と韓国は北朝鮮の核武装に対抗し、その結果アメリカ離れが起こる。東アジアの戦争は小さな衝突から破滅にエスカレートする>

冷戦下で外交手腕を発揮したアメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャーは先日、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに応え、東アジアは核拡散へと突き進んでいると警鐘を鳴らした。

キッシンジャーは、核武装した北朝鮮が軍拡競争の火ぶたを切って落そうとしており、「核兵器」は「アジアのほかの地域にも拡散する」だろう、と言った。

「北朝鮮だけが核兵器を保有する朝鮮民族国家になることはあり得ない。韓国は張り合おうとするだろう。日本も黙っていない」

北朝鮮が核の脅威をちらつかせて韓国と日本を挑発したことについて、キッシンジャーはそうコメントした。

世論調査によれば韓国では、60%が自国の核兵器製造に賛成している。以前にも検討されたことがあったが、アメリカがそれを阻止した。また日本でも、安倍晋三首相が戦争放棄をうたう憲法の改正を目指しており、北朝鮮がミサイル発射実験を実施するたびに、軍拡競争はますます現実味を帯びていく。

その気になれば

日本と韓国はともに核拡散防止条約(NPT)の加盟国であり、核兵器を製造することも保有することもできない。しかし、両国とも核ミサイルを迅速かつ大量に製造する技術を持っているとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。米国科学者連盟のチャールズ・ファーガソン会長が2015年に発表した報告書によると、韓国だけでも約4300個の核爆弾を製造できるという。

ソウル大学で原子核工学を教える徐鈞烈(ソ・ギュンリョル)教授は、「私たちが自立しようと決めて計画を立てれば、6カ月で核兵器を製造することができる」と語る。「韓国大統領の政治決断次第だ」

ドナルド・トランプ米大統領も、こうした攻撃的な考えを助長している。今年9月には日本と韓国に従来よりはるかに多くの最新鋭兵器を売却すると発言し、東アジアの軍拡競争に火をつけかねない、と批判を浴びた。

東アジアで核が拡散する危険性は数十年前から指摘されてきた。

日本や韓国が核武装すれば、北朝鮮と小さな軍事衝突が生じただけでも、戦争は壊滅にエスカレートしかねない。そればかりか、日本と韓国のアメリカ離れが起こる可能性もあると専門家は言う。

東アジアに核が拡散すれば、通常爆弾で核廃棄物などをまき散らす「汚い爆弾(ダーティーボム)」をテロ組織が手にする可能性も飛躍的に増大する。

しかも「核武装」に動き始めているのは日本と韓国だけではない。オーストラリア、ミャンマー、台湾、ベトナムも、北朝鮮に対抗すべく核武装を検討していると、ニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米判事、議会襲撃巡る恩赦を批判 「修正主義的神話」

ワールド

米南部、記録的寒波と吹雪で少なくとも12人死亡 9

ワールド

パリ協定再離脱、米石油・ガス業界は反対 トランプ政

ワールド

米軍、メキシコ国境に兵士1500人追加派遣へ さら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 8
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中