最新記事

中国政治

中国共産党以外の政党を育てない国が野党第一党がない日本を批判する滑稽さ

2017年10月12日(木)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


中国にも八大民主党派があるにはあるが......

中国には実は中国共産党以外にも、八大民主党派と呼ばれる「政党」が存在する。しかし民主党派は中華人民共和国憲法で、「中国共産党の指導の下で、中国共産党に協力する」と厳しく規定されている。

つまり、中国共産党にぶら下がっているのであって、政権を収奪し得る「野党」ではない。その意味では「政党」として育たないように、始めから仕掛けてあるのである。

日本には野党第一党がないと解説する中国

その中国が、なんと、「日本には自民党に代わって政権奪取できる野党第一党が、なかなか生まれない」と解説しているのを見て、驚いた。つまりアメリカのように二大政党制が生まれるチャンスがなく、ようやく希望の党がリベラル派を結集させるのかと思ったら、逆にリベラルを排除し、「寛容な保守」が「狭量な保守」になってしまったので、野党第一党の役割は果たしえないという解説だ。

中国は憲法と安全保障問題しか見ていないから、その面で自民党と希望の党は同じで、ただ総理大臣を誰にするかが違うだけだと見ている。そしてアメリカと比べると、日本では民主主義が成熟してないという見解を述べる者もいた。自国の一党支配体制を忘れているかのごとく、である。

日本は民主主義の良さを生かしたいものだ

中国では今月11日から第18回党大会の七中全会が開催されており、ここにおいて次期チャイナ・セブンのメンバーが最終的にリストアップされ、党規約の改正案なども決議される。党規約に関しては18日から開催される第19回党大会に諮り、チャイナ・セブンの承認は、第19回党大会が終わった直後にその延長線として開催される第19回党大会一中全会において最終採決される。

一党支配体制には、当然のことながら野党第一党はない。

しかし、「民主主義的選挙」というものに関して、中国は強い関心を持っている。少なくとも党内民主は胡錦濤政権が創った。それでも、立法機関である全人代に関しては欧米式の民主主義体制に移行しないために、中国は社会主義体制こそが最強の体制であると強調している。

たしかに日本の選挙が、必ずしも政策だけで動かず、数の論理や党利党略の原理が働いていることは否めない。それでも「国民が自らの意思で選ぶ」のであって、強制されて議員を選ぶわけではない。二大政党制のような形で野党第一党を誕生させるか否かは、日本国民自身が決めているのである。

そのことを考えると、選挙行動の広報のようで憚れるが、日本の選挙民に与えられた貴重な権利を活かしたいものだと痛感する。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ・加・中、関税阻止できず 2月1日発動へ=

ビジネス

FRB元顧問を逮捕・起訴、経済スパイ共謀罪 中国に

ワールド

米、ヘリのブラックボックスも回収 首都空港付近のヘ

ワールド

ベネズエラ、米国人6人解放 マドゥロ大統領と米特使
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌の育て方【最新研究】
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 6
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 7
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 8
    またか...アメリカの戦闘機「F-35」が制御不能に「パ…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中