最新記事

中東

アラブで高まる「第2の春」の予感

2017年10月31日(火)17時00分
シュロモ・ベンアミ(イスラエル元外相、トレド国際平和センター副所長)

モロッコの抗議運動リーダー、ゼフゼフィの逮捕に抗議して釈放を求める支持者たち(今年6月) Jalal Morchidi-Anadolu Agency/GETTY IMAGES

<中東各国で強権支配が一段と強化されるなか、人々の怒りのマグマは再び煮えたぎっている>

アラブ世界で吹き荒れた民主化運動の嵐「アラブの春」の幕開けから6年余り。11年当時と比べ、アラブ人の生活はさらに耐え難いものになっている。

中東と北アフリカでは15~24歳の若年層が総人口に大きな割合を占めているが、失業は今も深刻で、若者は希望が持てない。しかも、この地域の政権は軒並み市民の政治的な発言を封じ込め、民衆の抗議に暴力で応じる姿勢を強めてきた。

アラブ諸国は「強権支配の罠」から逃れられないようだ。エジプト、サウジアラビア、さらにはモロッコでも、その病弊が表れている。

革命はしばしば裏切りに終わる。いい例がエジプトだ。アブデル・ファタハ・アル・シシ大統領の強権体質は、11年の騒乱で失脚したホスニ・ムバラク元大統領より始末が悪い。

シシは、かつて自分が「100万人規模のマフィア」とこき下ろした警察を支配の手段にして、なりふり構わぬ人権弾圧で秩序を維持している。

ムバラク政権下では、人々は自由を失う代わりに国家の手厚い保護を手に入れた。だがエジプトの人口は年に200万人のペースで増え続けており、国家が国民を養うシステムはもはや限界に来ている。エジプト経済を破綻の淵から救うには改革の大なたを振るうしかないが、シシは民間の活力を引き出すどころか、軍を経済の牽引役に仕立てようとしている。

IMFは昨年11月、エジプトの経済再建計画を支援するため3年間で総額120億ドルの融資を行うと発表した。再建計画には、軍と警察を除いても650万人に上る公務員の給与と人員削減、国家予算の30%を占める補助金の削減などが盛り込まれている。だが国民の猛反発が予想され、シシは計画の実施に及び腰になっている。

さらに懸念すべきは、事実上の一党独裁だったムバラク時代以上に、シシ政権が野党やメディアに対する締め付けを強化していることだ。自分たちの声が政治に反映されなければ、人々は実力行使に出るしかない。エジプト経済・社会的権利センターの調べでは、昨年の街頭デモ件数は、「アラブの春」に先立つ数年間の平均の5倍に達した。民衆の怒りのマグマが大爆発を起こすのは時間の問題だろう。

中国はお手本にならず

サウジアラビアは、王族のサウド家が国民に大盤振る舞いをしてきたおかげで、「アラブの春」を比較的無難にやり過ごせた。しかし原油価格の下落に加え、人口が急増(この10年で25%余り増えた)。エジプト同様、これ以上ばらまき政策に頼るわけにはいかない。

政府は昨年9月、公務員の給与引き下げなどの緊縮策を打ち出したが、国民の反発を受けて今年4月に撤回した。勤労者の圧倒的多数が政府に雇われている現状では、公務員の給与はうかつに手を出せない「聖域」だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中