最新記事

テクノロジー

「光を音に」変えればネットは劇的に速くなる

2017年9月19日(火)18時32分
クリスチアンナ・シルバ

光の速さをもっと生かすには? Morteza Nikoubazl-REUTERS

<光ファイバーの中を光速で飛んできても、半導体の処理速度が追いつかずスローダウン。この壁を乗り越える奇抜なアイデアとは>

シドニー大学の研究者たちは史上初めて、光を音として保存する方法を発見した。将来、光速インターネットを実現するかもしれない技術だ。

情報は現在、光ファイバーケーブルを伝って光速で移動する。ただし、今のコンピューターで使われている半導体チップは、光速で情報を読み込んで処理することはできないので、最終的な通信速度は大幅に遅くなってしまう。

この壁を破りたいIBMやインテル、HPなどのコンピューター大手は膨大な資金を投じ、光エレクトロニクスを応用したチップの開発に取り組んでいる。計算は電子的に行うが、情報の伝達には光を使うチップだ。

だがそれがなかなかうまくいかない。そこでシドニー大学の研究者たちは、チップに手を加えるのではなく、移動する情報のほうに手を加えてみようと考えついた。

シドニー大学の研究メンバーの一人、モーリツ・メルクラインは、「(光をベースにしたコンピューターを)製品化するためには、光子データのスピードを、半導体が処理できるスピードまで落とす必要があった」と説明している。

現在使われているコンピューターは電子データを処理しているが、新しい技術を使うと、電子ではなく光子の形のままで処理できるようになる可能性があるという。データははじめ、光子として光速で移動する。それから、コンピューターチップが読み込み、処理できるように音速までスピードを下げ、チップを出るときには再び光速に戻る。

光通信が光に近付く

チップに入るとき、データは光パルスの姿をとる。そこに別のパルスが働きかけて、情報を保存できる音波に変わる。音速で半導体の処理を受けた後、光パルスがアクセスするとデータは再び光子に戻る。

「私たちのチップに音の形で存在するデータの伝送速度は、光に比べて5桁は遅い」と、シドニー大学のリサーチ・フェロー、ビルギット・スティラー博士は言う。「稲妻と雷ぐらい違う」

この技術が商用化されれば、コンピューターは光速によるデータ伝送のメリットを、今よりもっと享受できるようになる。現在の電子機器のように熱を持ったりしないし、電力もさほど消費しない。しかも、そのスピードは速過ぎない。現在コンピューターで使われているチップで情報を読み込める程度の速さなのだ。

シドニー大学の研究者、ベンジャミン・エグルトンはこう述べている。「今回の成果は、光学情報処理の分野における貴重な前進だ。このコンセプトは、現在と次世代の光通信システムが求める条件をすべて満たしている」

(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱電の今期、米関税で300億円コスト増 営業益は

ワールド

ECBは利下げ余地ある、トランプ氏の政策機能ぜず=

ワールド

中国が南シナ海の鉄線礁を「統制下に」と主張、フィリ

ビジネス

TDK、26年3月期営業益予想は0.4%増 リスク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中