英に迫るスタグフレーション 日系企業はコスト高とEU離脱で苦慮
9月4日、英国経済がスタグフレーションの危機に直面しようとしている。欧州連合(EU)離脱を控えた英ポンド安を背景に、輸入インフレが進行。だが、賃金伸び悩みにより、国内消費は不振で、物価高と景気後退の懸念が英経済を揺さぶっている。2016年3月撮影(2017年 ロイター/Phil Noble)
英国経済がスタグフレーションの危機に直面しようとしている。欧州連合(EU)離脱を控えた英ポンド安を背景に、輸入インフレが進行。だが、賃金伸び悩みにより、国内消費は不振で、物価高と景気後退の懸念が英経済を揺さぶっている。英国に進出した日本企業は、コスト高とブレグジット・リスクに挟撃され、対応に苦慮する展開もありそうだ。
ポンド安による輸入インフレ
英ポンドの対ドル相場は、昨年6月の英国民投票当日に1.5022ドルの高値を付けたが、4カ月後の10月7日に1.1491ドルまで24%急落。現在は、1.29ドル台まで反発しているが、安値から半値戻しも達成できていない。
「ポンドの弱い反発力は、ブレグジットを選んだ結果に対し、市場が厳しくみている証拠だ」と三井住友銀行・チーフストラテジスト、宇野大介氏は指摘。ポンドは今年末に1.25ドル、来年にかけて1.2ドルを割り込むと予想する。
EU離脱決定後のポンド安がもたらした物価上昇は、英国民の可処分所得と個人消費を圧迫し始めている。英消費者物価指数(CPI)は、昨年第4四半期の前年比1.2%上昇から、今年第2四半期の同2.7%上昇へと上げ幅を拡大している。
みずほ総合研究所・欧米調査部上席主任エコノミスト、吉田健一郎氏は、英経済は、スタグフレーションの状況に陥っていると指摘。この先も「ポンド安を背景にインフレ率が再び上昇し、実質所得が物価面から押し下げられる」とし、消費の下振れリスクが大きいとみている。
ポンドの実効レートは、今年6月の総選挙後に低下傾向となり、8月末時点で昨年10月以来の低水準にある。今後、欧州中央銀行(ECB)が出口戦略を模索するのに伴って、ユーロ高/ポンド安が進むとみられる中、「ポンドの実効レートは一段の低下が見込まれ、輸入インフレに寄与する」(吉田氏)との見方が多い。
イングランド銀行(英中銀)は8月3日の金融政策委員会(MPC)で、政策金利を過去最低水準の0.25%に据え置くとともに、2017年および18年の国内総生産(GDP)伸び率見通しを下方修正した。しかし、一部のMPC委員は、ポンド安によりインフレ率が数カ月間で約3%上昇する公算が大きいとし、直ちに利上げを開始すべきと主張する。