最新記事

ダイアナ死去から20年

ダイアナを「殺した」のはマスコミか

2017年8月31日(木)19時00分
マシュー・クーパー

96年9月に知人の葬儀でギリシャを訪れたダイアナをメディアが囲む REUTERS

<スクープ写真を狙う「パパラッツィ」とスキャンダルを求める大衆が、プリンセスを死に追いやった?>

【ニューズウィーク日本版1997年9月10日号「特集:悲劇のプリンセス」から転載】

パパラッツィとは、イタリア語で「やかましい虫」のこと。だがダイアナをしつこくつけ回したカメラマンたちは、もちろんただの「虫」ではなかった。

一人だけ例をあげよう。名前はマーティン・ステニング。不気味な偶然だが、パリの路上でパパラッツィに囲まれて不慮の事故死を遂げるちょうど一年ほど前、ダイアナは裁判を通じてこのカメラマンを懲らしめることに成功した。

バイク便の配達係から転身したステニングもまた、ダイアナを追跡するのが好きなパパラッツィの一人だった。ほとんどどこへでもついて行き、彼女の車に衝突したことも二度あった。

そうした行動をステニングは「私を傷つけるために計算して行っている」と、ダイアナは裁判で主張。ステニングは否定したが、裁判所はダイアナの言い分を認め、今後は彼女に300メートル以上近づいてはならないと命じた。

ダイアナの乗るベンツに寄生虫のようにまとわりついていたバイク集団が、彼女を死に追いやったのかどうかは今のところはっきりしていない。だが、彼らは非難の集中砲火を浴びている。

「彼女はいずれマスコミに殺されるだろうと思っていたが」と、ダイアナの実弟であるスペンサー伯爵は言った。「これほど直接的な形になるとは思わなかった」

実際、ダイアナの車はカメラマンの追跡をかわすために速度を上げた可能性がある。フランス警察は、現場にいたカメラマン七人を事情聴取のために拘束した。

確かなことが一つある。プライバシーなどおかまいなしのカメラマンを放置してきた世界中の人々は、悲惨な最期を遂げたプリンセスに罪の意識を感じずにはいられない、ということだ。

ダイアナの死によって、スクープ合戦に歯止めがかかるのではないか。少なくとも大衆は、そうした刺激から目を背けるようになるのではないか。そんな希望にも似た観測も出ている。

【参考記事】ダイアナ元妃の生涯と「あの事故」を振り返る

ダイアナは最高のネタ

だが、パパラッツィを退治するのは一筋縄ではいきそうにない。彼らの活力源は、スキャンダルを好む大衆の欲望だ。過激さはいくらか弱まるとしても、その存在が消えることはないだろう。

有名人がカメラに追いかけ回されるのは、今に始まったことではない。パパラッツィという言葉を初めて使ったのは、イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニだ。彼は1960年の作品『甘い生活』の中で、スター女優をつけ回すカメラマンに皮肉を込めてこのあだ名をつけた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、2月は245%増 連邦政府職員の解雇が

ワールド

トランプ政権、イラン産原油タンカーの海上検査を検討

ビジネス

焦点:セブン、株主還元で株価浮上狙う 本質的な価値

ビジネス

英2月建設業PMIは44.6、20年5月以来の低水
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行為」「消費増税」に等しいとトランプを批判
  • 4
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 5
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 10
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 8
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中