トランプ政治集会の中で聞いた、「優しい」支持者たちの本音
キャバレルがトランプを支持する理由は明快だった。
――自分は「不法滞在の」移民に反対だ。夫の姪2人が3歳と4歳のときにメキシコからやって来て、10歳と11歳で彼女たちの両親が強制送還されると2人を自分たち夫婦の養子にして育ててきた。自分たちはすべて合法的な手続きをして、米国市民として多額の税金を納めている。夫の叔父はメキシコで、アメリカへの移民希望者リストに17年間も名前を載せて合法的に入国できる日を待っている。(ニュースで見た、トランプの大統領令を受けて今年2月に強制送還されたメキシコからの不法移民の女性は)社会保障番号を偽装していた。もし私が同じことをやったら、家族と離れ離れになることなんて誰にも気にされず刑務所送りにされるのに、なぜ不法移民だと保護せよと言うのか。トランプが国境に壁を作るというなら私は支持する。
そこまで語り、星条旗の柄にマニキュアを施した爪を突き出して「見て!」と笑った。キャバレルとは、「聞きたいことがあったら、いつでも電話してね」と言われて別れた。
「トランプは、ジーザスと同じ」
午後4時、スマートフォンが気温42度を表示するなか、私も集会に入るための長い列に並び始めた。ジリジリと照り付ける日差しで、肌が痛いほど暑い。
サウナの中にいるような息苦しさの中、トランプ支持者たちは巨大なコンベンションセンターを6ブロック分ほど取り囲む長蛇の列にどんどん加わっていく。思わず脱落したくなるほどの暑さに、支持者たちの熱さを肌で感じる。
熱狂的なトランプ支持者が大挙する集会で「ニューズウィーク」の肩書を名乗るのは、少し緊張する。トランプ支持者にとってニューズウィークは、「フェイクニュースを伝えるリベラルメディア」の一角を成す存在だ。
あとどれくらいで集会会場に入れるか分からないなか、周りの支持者にいつ取材を切り出そうかと思案していると(あまり早すぎると険悪になった場合に待ち時間が辛くなると思った)、後ろに並んでいたヒスパニック系の女性に「どこのメディアなの?」と笑顔で話しかけられた。メモとペンを片手に持ち、赤いトランプ帽ではなく(熱中症予防に買った)「ARIZONA」と書かれた黒いキャップをかぶっているアジア人は、列の中ではかなり浮いた存在だ。
バレてしまった、と思いつつ、「リベラリズムは心の病気だ!」と書かれたプラカードを持った少年が通り過ぎるのを待ってから、話しかけてきたセリア・ゴンザレス(51)に所属を明かして取材を始めた。周りのトランプ支持者たちは、「ニューズウィーク」と言うと一様に顔をひきつらせるが、「日本語で発売している日本版だ」と付け加えるとかなり和む。
トランプの熱狂的な支持者だというゴンザレスは、フェニックスから東に車で30分ほどの都市メサから来ていた。セラピストであり、6歳のときにメキシコから来た移民だという。
ヒスパニックがトランプを支持する――これは、2016年の大統領選で想定外の「サプライズ」の1つだった。
アリゾナ州は1952年以降の大統領選で、96年にビル・クリントンが勝利した以外は共和党が赤に染めてきた"レッドステート"だ。それでも、ヒスパニックの人口が州の約31%を占めるなか、メキシコからの移民を「犯罪者」や「レイプ魔」と呼ぶトランプは苦戦するのではないか。そんな事前の予想を覆し、トランプは約49%の得票率で勝利し(ヒラリー・クリントンは約45%)、ピュー・リサーチセンターの調査では同州のヒスパニック票の28%を獲得していた(クリントンは66%)。ヒスパニックの有権者の4人に1人以上が、トランプに入れたことになる。
【参考記事】元大手銀行重役「それでも私はトランプに投票する」