最新記事

イギリス

ブレグジット大惨事の回避策

2017年6月26日(月)09時45分
フィリップ・レグレイン(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス欧州研究所客員研究員)

「ハードブレグジットよ、安らかに眠れ」とメイ首相の総選挙敗北を揶揄するオブジェ(ロンドン、9日) Marko Djurica-REUTERS

<威勢よくEU離脱を宣言したもののイギリス政治は大混乱。このままでは合意なしで交渉期限切れになる可能性もある>

イギリスが混乱に陥っている。始まりは昨年6月の国民投票で、EUからの離脱(ブレグジット)を僅差で選んだことだ。

残留派のデービッド・キャメロン首相が辞任すると、保守党内ですったもんだの末、テリーザ・メイ首相が誕生。今年3月にはEU離脱法案が議会で可決され、政治的にも経済的にもEUときっぱり関係を断つ「ハードブレグジット」に弾みがついたかに見えた。

ところがメイは、もっと弾みをつけたいと考えた。保守党が下院で単独過半数を握っていたにもかかわらず、解散総選挙を実施すると発表。離脱を迅速化するため議会の基盤を強化したいと思ったようだが、その賭けは裏目に出た。

6月上旬の総選挙で、保守党は単独過半数を喪失。メイが掲げていたハードブレグジットには黄信号がともり、離脱後も単一市場や関税同盟にとどまる「ソフトブレグジット」の可能性が高まってきた。最悪の場合、離脱条件がまとまらないまま交渉期限が切れてしまう可能性もある。

その日は刻一刻と近づいている。メイがEUに正式な離脱通知をしたのは3月29日。6月末に正式な離脱交渉が始まるが、EUのルールでは、たとえ交渉がまとまらなくても2年後(つまり19年3月末)には離脱が発効する。

交渉期間はさらに2年間延長可能だが、27加盟国全ての賛成が必要なため実現は難しいだろう。誰もがこの問題を早く片付けたがっているのだ。

【参考記事】EU離脱交渉、弱腰イギリスの不安な将来

EUとの交渉が難航する以前に、イギリスの政治的混乱が続いて交渉が進まない可能性もある。選挙結果を受け、メイは民主統一党(DUP)との閣外協力を模索しているが、DUPは宗教的保守派の北アイルランドの地域政党で、保守党との政策調整は容易ではない。

メイの立場も盤石ではない。首相の座を維持しているが、今回の選挙結果に党内では不満がくすぶっている。万が一メイ政権が倒れるようなことになれば、保守党は新しい党首選びに数カ月を要するだろう。新党首が再び議会を解散して、国民の信任を問おうとするかもしれない。

そんなことをしていたら、2年間の期限などあっという間だ。威勢よくEU離脱を宣言したものの、イギリスは有利な条件を引き出せないままEUから出ていくことにもなりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中外相が会談、安保・経済対話開催などで一致

ワールド

カザフスタンで旅客機墜落、67人搭乗 28人生存

ビジネス

政府経済見通し24年度0.4%に下げ、輸出下振れ 

ワールド

ロシア産天然ガスの欧州向け輸出、今年は18─20%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立て…
  • 8
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 9
    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 6
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 10
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中