最新記事

イラク

【動画】銃撃の中、イラク人少女を助けた米援助活動家の勇気

2017年6月23日(金)12時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Jon w-YouTube

<戦場と化したイラクのモスルで、アメリカ人援助活動家が少女を助け出した動画が共感を呼んでいる>

まず下の動画を見てほしい。場所は明らかに戦場だ。画面の左方向から銃弾が降り注ぐなか、戦車の陰からヘルメットと防弾チョッキを着けた男性が飛び出していく。2人の兵士が援護射撃。12秒後、男性は無事に戻って来る。腕に少女を抱いて。

場所はイラクのモスル近郊、かつてペプシの工場があった地区だ。大人から子供まで、100メートル以上先に死体がいくつも転がっていた。テロ組織ISIS(自称イスラム国)の狙撃手に銃殺されたのだという。

だが、5歳くらいの少女が、死んだ母親のヒジャブに隠れるようにして生き残っているのが見える。壁を背に、助けを求めている男性もいた。ISISによる銃撃はまだ続いている。

そこで、イラク軍と行動を共にしていたデービッド・ユーバンク(56)は助けに行くことを決めたのだと、後にロサンゼルス・タイムズ紙に語っている。このビデオは先週末に公開された。

イラク北部の大都市モスルはISISの最後の拠点となっており、イラク軍や有志連合によるモスル奪還作戦が昨年10月から続いていた。イラク軍は6月21日、ISIS支配の象徴でもあった同市内の歴史的モスク「ヌール・モスク」をISISが爆破したと発表。モスル陥落は近いとみられている。

【参考記事】動画:ISIS発祥の地ヌーリ・モスク最後の日

そんな戦場と化したモスルで少女を助け出したユーバンクの勇気ある行動は、「本物のヒーローだ」と共感を呼び、米メディアやSNSで話題となった。理由の一端は、彼が民間人であることだ。

元グリーンベレー、妻子もイラクで援助活動

デービッド・ユーバンクとは何者なのか。

テキサス出身のユーバンクは、元グリーンベレー(米陸軍特殊部隊)隊員。18歳で入隊し、中南米やタイで作戦に従事してきた。だが10年経った1992年に除隊。「神が導くほうに行く自由」が欲しかったからだとロサンゼルス・タイムズに語っている。

ユーバンクの両親はキリスト教宣教師だ。神学校に入った彼は、そこで出会った妻のカレンと共にミャンマー(ビルマ)へ行くようになり、その後、他の団体がなかなか入れない地域に薬や物資、人道支援を届ける援助団体「フリー・ビルマ・レンジャーズ」を創設した。この2年はイラクとシリアを中心に活動してきたという。

ユーバンク夫妻には3人の子供がいるが、CBSによれば、子供たちもフリー・ビルマ・レンジャーズのすべての活動に参加してきたという。子供たちは現在、16歳、14歳、11歳。このモスルへも同行している。

危険な地域にまで連れてきていることに驚く人もいるかもしれないが、当の子供たちはそう思っていないらしい。長女のサヘルはCBSの取材にこう答えている。「前線にも子供たちがいて、その親は銃で撃たれたりしている。だから、その子たちを助けるのに私たちも前線に行くことはおかしくないと思う」

モスルでのイラク人少女救出の場面に戻ると、ユーバンクはその時、銃撃は続いていたが、助けるには今行くしかないと考えたという。「『もしこれで死んでも、妻と子供たちはわかってくれる』と思った」と、彼はロサンゼルス・タイムズに語った。

救出された少女はどうやら、イラク軍将校が養子にする計画があるようだ。ユーバンクはその後、もう1人生存していた男性も助けようとしたが、こちらは残念ながら助けられなかった。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 不確実

ビジネス

任天堂、「スイッチ2」を6月5日に発売

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中