最新記事

科学

ディズニーランド「ファストパス」で待ち時間は短くならない

2017年5月7日(日)16時09分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

mattjeacock-iStock.

<ディズニーランドに行ったことのある人なら誰もが経験したであろう、アトラクションの順番待ちの行列。ファストパスは「統計的思考」を活用した天才的な解決策だが、それにより待ち時間が短くなっているわけではない>

株価など企業の情報があふれていてもほとんどの人は株で大儲けできず、IT分野に巨額の投資をしているのに飛行機の遅延や交通渋滞はなくならない。情報を賢く活用し、世の中を良くすることはかくも難しい。

そんな時に役立つのが「統計的思考」だ。

ビジネス統計学を実践するカイザー・ファングは著書『ヤバい統計学』(矢羽野薫訳、CCCメディアハウス)で、ディズニーランド、交通渋滞、クレジットカード、感染症、大学入試、災害保険、ドーピング検査、テロ対策、飛行機事故、宝くじという10のエピソードを題材に、統計的思考を駆使する専門家たちを紹介し、数字の読み解き方を指南している。

ここでは、平均という概念を扱った本書の「第1章 ファストパスと交通渋滞――平均化を嫌う不満分子」から、ディズニーランドの行列に関する箇所を抜粋し、2回に分けて転載する。

行ったことのある人なら誰でも、アトラクションの順番待ちの列にイライラした経験があるはず。この第2回では、ディズニーが生み出した「ファストパス」という"魔法"について解説する。

※第1回:ディズニーランドの行列をなくすのは不可能(と統計学者は言う)

◇ ◇ ◇

 ディズニーは長年をかけて、知覚を管理する魔法を完成させてきた。パーク内を歩いてみれば、彼らの工夫があちこちにある。エクスペディション・エベレストのウェイティングエリアはさながらネパールの村で、ヒマラヤ地方の工芸品や植物が再現されている。ゲストはジェットコースターの乗り場に向かいながらイエティ博物館を見学し、謎めいたメッセージに興奮をかき立てられる。あるいは、行列がかなり長くなるとパーク内で「ストリートモスフィア」と呼ばれるストリートパフォーマンスが始まり、ハリウッド映画のキャラクターなどがゲストを楽しませる。

 ディズニーの元幹部ブルース・ラバルによると、予想待ち時間の看板は「実際の待ち時間よりわざと長く表示してある」。どこかの企業のカスタマーサービスに電話をして、コンピュータの音声で「おつなぎするまで5分ほどお待ちください」と言われたとする。その2分後に顧客サービスの担当者が応対したときと、8分後もまだ待たされているときと、あなたの気分はどのように違うだろうか。これが「控えめに約束して、大きめの結果を出す」というサービスの基本戦略だ。ほかにもさまざまな工夫によって、列が速く進んでいるように感じさせたり、待っていることから注意をそらさせたりする。

 そして、ディズニーの待ち時間対策の超切り札は「ファストパス」。2000年から導入されている「優先入場予約」システムだ。人気アトラクションの前に着いたら、通常の「スタンバイ」の列に並んで順番を待つか、あるいはファストパスを発券し、パスに指定された時間に戻ってきて優先入場口に並ぶこともできる。ファストパスの列はスタンバイの列よりかなり速く進むため、指定時間内に並べば待ち時間は5分程度で済む。アトラクションの前にはスタンバイの予想待ち時間と、ファストパスを発券した際の指定時間が表示されている。満足したゲストたちの証言からも、この方法が間違いなく成功していることがわかる。ある分析好きなディズニーファンはその理由を次のように語っている。

【参考記事】どうして日本人は「ねずみのミッキー」と呼ばないの?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論

ワールド

北朝鮮、日米のミサイル共同生産合意を批判 「安保リ

ビジネス

相互関税「即時発効」と米政権、トランプ氏が2日発表

ビジネス

EQT、日本の不動産部門責任者にKKR幹部を任命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中