最新記事

アメリカ政治

トランプ政権の公的医療保険「改正」案、無保険者2300万人に

2017年5月25日(木)16時30分
エミリー・カデイ

医療保険「改悪」に抗議する脳性麻痺患者のアルバ・ソノサ(5月9日、ニューヨーク) Shannon Stapleton-REUTERS

<病歴があると保険に入れない可能性あり、低所得者、高齢者、障害者向けの保険も削減。これがトランプが約束したグレートなアメリカか>

今月初めに米下院を僅差で通過した共和党のオバマケア(医療保険制度改革)代替法案。この法案が上院でも可決されれば、2026年までに2300万人の無保険者が出ると、米議会予算局(CBO)が発表した。

3月にトランプ政権が撤回した最初の代替案に比べれば、今回の法案は無保険者の数は多少改善された。しかし今回の法案にはオバマケアの規制を回避できる免責条項があり、州政府が認めれば、保険会社は既往症を理由に保険契約を拒否したり、保険料を高く設定できるようになる、CBOが問題にしたのはこの点だ。これが大きなネックになり、上院の審議は難航が予想される。

【参考記事】オバマケア廃止・代替案のあからさまな低所得層差別

ポール・ライアン下院議長ら共和党指導部は、今回の代替案では重病人や弱者が見捨てられることはないと主張していたが、CBOの報告書はそれを否定した形だ。

ライアンらに言わせると、新法案には弱者のための救済措置が盛り込まれている。州政府は免責を認める場合、病歴があるなど高いリスクがある人に「ハイリスク・プール」と呼ばれる救済措置を提供しなければならない。これに対して連邦政府が財政支援を行うことも法案に盛り込まれている。

「オバマケアは死んだ」?

これを根拠に、ドナルド・トランプ米大統領はオバマケアに守られていた人が無保険になることはないと断言していたが、CBOの試算によれば、救済措置は不十分だ。

CBOによると、免責条項により既往症を理由に保険料を割り増し請求できるようになれば、「ハイリスク」層の保険料は「じわじわ上昇」し、最終的には「保険加入を拒否されない場合でも、連邦政府の補助金では賄いきれないほど保険料が上がり、個人契約の包括的な医療保険に加入できなくなる」という。

一方、病歴などがない人は、今回の法案が通れば、保険料が下がる。そのため保険加入者が増え、多くの州では医療保険の財政基盤が安定すると、CBOは予測している。ただしCBOによれば、特に州政府が「エッセンシャル・ヘルス・ベネフィット」の免責を認めた場合、保険でカバーされない自己負担の医療費が増える。

免責条項は、前回の代替案を葬り去った共和党右派の主張に譲歩する形で盛り込まれた。共和党右派は、公的医療保険制度そのものに反対で、できるだけ政府の支出を減らしたがっている。免責のおかげで法案は下院で僅差で可決され、トランプは「オバマケアは死んだ」と勝利宣言した。しかしCBOの報告書を受けて共和党穏健派は免責条項に抵抗するとみられ、上院での成立は望み薄だ。

【参考記事】トランプは張り子の虎、オバマケア廃止撤回までの最悪の一週間
【参考記事】撤廃寸前のオバマケアに加入者殺到の怪

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ空爆で26人死亡、停戦合意へ調停続く

ビジネス

英中銀、金利4.75%に据え置き 3委員は利下げを

ビジネス

ノルウェー中銀金利据え置き、来年3回の利下げ想定 

ワールド

プーチン大統領阻止へ米欧は結束を、ウクライナ大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 2
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 3
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 4
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 5
    「均等法第一世代」独身で昇進を続けた女性が役職定…
  • 6
    米電子偵察機「コブラボール」が日本海上空を連日飛…
  • 7
    「制御不能」な災、黒煙に覆われた空...ロシア石油施…
  • 8
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 9
    滑走路でロシアの戦闘機「Su-30」が大炎上...走り去…
  • 10
    日産とホンダの経営統合と日本経済の空洞化を考える
  • 1
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 2
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 3
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 4
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 8
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 9
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 6
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 9
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中