最新記事

トルコ

区切りを迎えたトルコのシリア介入:「ユーフラテスの盾作戦」の終了

2017年4月6日(木)18時30分
今井宏平(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

トルコ-シリア国境のトルコ軍 Murad Sezer-REUTERS

<トルコ、エルドアン大統領は、2016年8月から「イスラーム国(IS)」掃討のためにシリアで展開していた「ユーフラテスの盾作戦」を目的が達成できたために終了すると発表した。シリアををめぐる各国の思惑とは...>

「ユーフラテスの盾作戦」の終了

3月末から4月初旬にかけて、トルコの対シリア政策でさまざまな動きが見られた。3月29日の国家安全保障会議において、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は2016年8月24日から対「イスラーム国(IS)」掃討のためにシリアで展開していた「ユーフラテスの盾作戦(Fırat Kalkanı Harekât)」を目的が達成できたために終了することを発表した。

3月31日には、軍参謀本部のウェブサイトでも同作戦の終了が発表された 。218日間に及んだ「ユーフラテスの盾作戦」において、トルコ軍兵士は60名以上が死亡した。一方で、アルジャジーラ・トルコの報道によると、トルコ軍との戦闘で3060名のISの兵士、462名の民主統一党(PYD)の兵士が戦闘不能の状態となったとされる 。

トルコのシリア介入の目的は、シリアの反体制派を援護し、IS掃討だけではなく、ISとの戦いにおいて欧米諸国から支援を受け、支配地域を広げているクルド系のPYDおよびその軍事組織である人民防衛隊(YPG)への牽制も含まれていた。

トルコは、PYDがトルコ国内の非合法武装組織であるクルディスタン労働者党(PKK)と同一の組織と見なしており、PYDおよびYPGがシリア北西部のアフリーンからコバニを経てシリア北東部のカーミシュリーに至る北部地域一帯を確保することを懸念している。これを防ぐため、PYDが支配するアフリーンとコバニの間の地域、アアザーズからジャラーブルスに至る地域を押さえることが必要であるとトルコ政府は考えている。

【参考記事】トルコはなぜシリアに越境攻撃したのか

転機となったアンタルヤ会議

トルコ軍はまず、ジャラーブルスにおいてISを駆逐し、その後、南進しマンビジュに進攻した (注:10月にはチョバンベイから第二陣が入り、ISの要地の1つであるダービクを奪還した) 。

マンビジュは元々ISが支配していた地域であったが、2016年6月から8月にかけて、アメリカがPYDを支援する形でISとの戦闘が展開され、8月中旬、PYDはマンビジュをISから奪還していた。そのため、マンビジュではISの残党を掃討するだけでなく、PYD、YPGおよびシリア民主軍(SDF)とトルコ軍は衝突することとなった。

3月初旬、トルコのメヴルット・チャヴシュオール外相はクルド勢力がマンビジュから撤退しなければトルコは彼らの支配地域に進攻すると発言した。その後、今度はアメリカ同様にIS掃討のためにPYDを支援していたロシア軍が、PYDがマンビジュから撤退し、アサド政権軍が同地域の占領を引き継ぐと発表した。

潮目が変わったのは3月7日にトルコのアンタルヤで行われたアメリカのジョセフ・ダンフォード統合参謀総長、ロシアのワレリー・ゲレシモフ統合参謀総長、トルコのフルシ・アカル統合参謀総長による3者会談であった。

この会談でISの本拠地であるラッカへの軍事作戦は反体制派およびそれを支援するトルコ軍ではなく、PYD、YPG、SDFを中心に展開することが発表された。このアンタルヤでの会談で、トルコ軍のシリアへの介入継続の道は事実上絶たれたと判断できるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日米の宇宙非核決議案にロシアが拒否権、国連安保理

ビジネス

ホンダ、旭化成と電池部材の生産で協業 カナダの新工

ビジネス

米AT&T、携帯電話契約者とフリーキャッシュフロー

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3%で予想上回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中