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中韓関係

朴槿恵大統領罷免とTHAAD配備に中国は?

2017年3月13日(月)15時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

ということは、ハンソル氏の出国に関する便宜を図ったことになる。その直後、マレーシア警察は殺害された韓国籍男性キム・チョルがまちがいなくキム・ジョンナム(金正男)氏だと宣言。確認した方法は言えないとするマレーシア警察側に対して、現地メディアは「ホクロ」の位置から判断したとしているが、それなら、なぜこのタイミングなのか?

おそらくハンソル氏が第三国に行くことによってDNAサンプルをマレーシア側に渡したものと推測される。中国内にいたらできなかった採取を、第三国に行くことによって可能せしめたということになろうか。これは明らかに北朝鮮に不利となる。「私は知りません」という顔をして、中国は北朝鮮を追い込んだのだ。ハンソル氏がマカオを離れてマレーシア以外の国に行くのは「自由」なのだから、第三国に行った後に何をしたかに関しては、中国は「知ったことではない」という立場を取ることができる。

「ロッテいじめ」は長期戦略――米韓関係の重点は減る

いま中国はロッテグループの製品を中心として韓国への経済の締め付けを強化しているが、ムン氏が大統領に当選すれば、一気に緩和させ、韓国の国民感情を中国へと惹きつける戦略を、中国は温めている。

中韓関係が朴政権初期のように蜜月になれば、米韓はやや疎遠になっても、北朝鮮に対する融和策を打ち出していけば、それほど困らない。いま経済的に苦しくなっている韓国民は、中国の経済支援のアメを歓迎するだろう。

日本では中国の韓国経済への締め付けが「弱い者いじめで、えげつない」と報道するメディアが多いが、中国のこの長期戦略を見逃してはならない。中国は、韓国の「国民感情」が大統領弾劾と罷免まで実現させたという「韓国人の国民性」にも、注目しているのだ。

その国民感情は、ムン政権になれば、慰安婦問題などで日本にも向かってくることを警戒したい。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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