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日本企業トランプ政権の政策に不透明感 設備投資に慎重な日本企業
2月20日、2月のロイター企業調査によると、トランプ政権の政策不透明感から、米国での設備投資に慎重な姿勢が広がっている。川崎の貿易港で昨年10月撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
2月のロイター企業調査によると、トランプ政権の政策不透明感から、米国での設備投資に慎重な姿勢が広がっている。大統領の掲げる米国第一主義に対しては、9割近くの企業が現時点で特別な対応はないとしているが、自動車業界は現地調達の拡大や稼働率引き上げで対応するとの回答が半数を超えた。
ただ、同業界でも、米国の需要は伸びないとの見方が6割を超え、米国内での雇用拡大や設備投資には慎重となっている。
この調査は資本金10億円以上の中堅・大企業400社を対象に1月31日─2月14日に実施。回答社数は240社程度。
<米需要拡大に懐疑的な企業、投資も手控え>
新政権発足後の米国の景気拡大に日本企業はそれほど楽観的な見方をしていない。今後1─2年の米国需要が拡大するとの見方はほぼ半数にとどまった。
移民制限など保護主義的な政策を受け「人件費上昇や関税強化によるインフレ」(化学)を見込む声が多く、「物価上昇が消費にマイナスになる」(電機)とみている。「移民制限による人手不足が成長の足かせになる」(運輸)との指摘もある。
自動車などの輸送用機器では、需要が拡大するとの見込みは3割台にとどまる。「直近までの好況は景気循環によるもの。政治的混乱もあり、景気は今後下降する」との見方が複数寄せられている。
来年度の設備投資計画でも、米国投資の伸びは弱まりそうだ。米国への投資増加を計画する企業は全体の9%にとどまり、米国以外の海外投資増の21%に比べてかなり少ない。輸送用機器を含む幅広い業種で米国投資を手控える様子がうかがえる。
「米国と中国で自国生産を求める動きが強まる懸念がある中、生産拠点の配置は極めて悩ましい問題」(ゴム)との声や、「メキシコ投資の中断を検討している」(輸送用機器)など、海外投資の見直しを視野に入れる企業も少なくない。
<米国第一主義、自動車は現地調達を拡大>
ただ、こうした見方は今のところ米国での事業展開にさほど影響していない。回答企業の85%が従来通りとし、「慎重化」との回答は11%、「積極化」する企業は5%だった。
このなかで、輸送用機械は「慎重化」が21%、「積極化」も14%と、他業種よりも新政権への反応が強く表れている。
「米国第一主義」への具体的な対応策についても、9割の企業が考えていないと回答したが、輸送用機械では「米現地調達の拡大」を検討している企業が31%、「米施設の稼働率引き上げ」が23%にのぼった。
ただこれらは従来の取り組みの延長で、新たな動きとはいえない。日産自動車は「北米に限らず現地調達率を上げていく活動をしている。」(2月決算発表の席で田川丈二常務執行役員)と述べている。
実際、自動車メーカーにとって、米国での大規模な新規投資は難しい状況だ。
日本政策投資銀行・産業調査部では「自動車メーカーによる海外新規工場投資は一巡した。トランプ政権になったから数カ月で新たな投資計画を提示せよと言われても難しいのではないか」とみている。
トヨタ自動車の大竹哲也常務役員は「生産能力の増強、工場建設の場合には、リードタイムが必要になってくる」(2月6日決算発表の席で)と述べている。
大規模な新規工場建設が難しいため、雇用拡大にも限界がある。米国第一主義への対応として雇用の拡大を挙げた輸送用機械の企業はゼロだった。
<貿易協定は二国間もやむなし>
環太平洋連携協定(TPP)の発効が困難となるなか、望ましい貿易協定の枠組みについては、当面は日米、日EUなどの二国間貿易協定を進めるべきとの回答が42%と最も多かった。「米国との関係性の明確化が必要」(精密機器)と考える企業は多く、「リスクは大きいが当面は日米二国間協定を優先するしか有効な選択肢はない」(機械)という。
米国抜きのTPP推進も23%が支持。「輸出産業に利益をもたらすには農業分野の譲歩が不可欠。既に農業でコンセンサスができているTPPが早道」(電機)、「関税だけでなく知財保護を含めた高度な協定を推進すべき」(不動産)との指摘がある。
<手元資金の使い道、国内事業が増加>
手元資金の有効な使い道については、国内事業展開を挙げた企業が34%と最も多く、3年前の14年3月調査の26%を上回った。他方で海外事業展開との回答は14%で3年前より減少した。アジア経済の減速や海外自動車投資の一巡が影響しているもよう。
雇用拡充・賃上げを挙げた企業は4%で3年前とほぼ変わらず。内部留保は14%と、3年前の21%から減少した。
(中川泉 梶本哲史 編集:石田仁志)