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ロシア金正恩氏の「国民虐待」にロシアが手を貸し始めた
Sergei Ilnitsky-REUTERS
<北朝鮮の人権侵害に中国は間接的ながら加担してきたが、このたびロシアもその「仲間」に加わった。昨年ロシアと北朝鮮が結んだ協定に基づき、ロシアで20年近く暮らしてきた北朝鮮人が強制送還される危機に瀕している>
ロシアで20年近く暮らしてきた北朝鮮労働者が、ロシア警察に逮捕され、強制送還される危機に瀕している。
国際社会から自国民に対する人権蹂躙を非難され続けている金正恩体制だが、北朝鮮と国境を接する中国も、間接的ながらそこに加担してきた。脱北者が国に連れ戻されたら収容所での虐待を免れないと知りながら、北朝鮮から逃れてきた人々を摘発して強制送還してきたのである。
(参考記事:刑務所の幹部に強姦され、中絶手術を受けさせられた北朝鮮女性の証言)
そのため、誰にも法的な保護を求められない脱北者たちは、中国の地においてさらなる人権侵害に苦しむことにもなっている。
(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち)
そしていま、ロシアまでがそこに加担しようとしているのだ。
ロシア・サンクトペテルブルクのオンラインニュースサイト「フォンタンカ」によると、北朝鮮労働者のチェ・ミョンボクさんは先月、警察当局に逮捕され、レニングラード州ブセボロジュスクの裁判所から強制送還命令を受けた。
チェさんは現在、不法滞在者収容所に収監されており、強制送還命令は今月10日に執行される予定だ。今回の決定は、ロシアと北朝鮮が昨年2月に結んだ「不法入国者と不法滞在者収容と送還に関する協定」に基づいたものだ。同協定に対しては、ロシアが脱北者を北朝鮮に送還する根拠となると批判の声が上がっていたが、それが現実のものとなろうとしている。
ロシアの人権団体「メモリアル」のオルガ・ツェイトリナ弁護士は、チェさんの強制送還を防ぐためにロシア連邦保安庁(FSB)を訪問し、担当者に「強制送還されれば処刑される可能性がある」などと説得したものの「全く理解されなかった」(ツェイトリナ氏)。
そのため同弁護士は、フランス・ストラスブールの欧州人権裁判所(ECHR)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に人身保護請求を申し立てるなど、あらゆる手立てを講じている。
ちなみに、FSBの前身は旧ソ連時代の諜報・公安機関、国家保安委員会(KGB)である。旧ソ連において、反体制派の摘発・弾圧を行ってきた同じ組織が、北朝鮮による同様の行為を手助けしようとしているわけだ。
北朝鮮出身のチェさんは、ロシア沿海州に派遣され働いていたが、1999年に職場から脱出した。韓国に行くこともできたが、当時は今ほど情報が多くなかった上に、北朝鮮に残してきた家族に累が及ぶことや、自身が逮捕されることを懸念し、サンクトペテルブルクで隠遁生活を送ってきた。
チェさんと同様の状況に置かれた脱北者は最大で数百人に上ると見られており、中には20年間も外国をさまよった人もいる。
日本政府は、日本人拉致問題を解決するための取り組みの一環として、国連における北朝鮮の人権問題追及をリードしてきた。北朝鮮の人権問題の改善を目指す国際協調が、拉致問題にプラスの影響をもたらすと考えてのことだろう。ならば、ロシアが北朝鮮の人権侵害に加担することは、日本の取り組みが後退することを意味するはずだ。
安倍政権はこのような動きを、絶対に黙って見過ごすべきではない。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。