最新記事

シリア情勢

トランプ政権で、対シリア政策はどうなるのか

2016年11月11日(金)15時30分
青山弘之(東京外国語大学教授)

Jonathan Ernst-REUTERS

<トランプ政権は、「シリア内戦」への関与を弱めることはあっても、強めることはない。中途半端な干渉政策が当面続くと見るのが妥当だろう>

 米大統領選挙で共和党候補のドナルド・トランプ氏が当選を果たした。「過激な発言で知られる」という枕詞を冠して紹介されることが多いトランプ氏を頂点とする米次期政権は、シリア内戦の行方に「過激」な変化をもたらすだろうか?

「シリア内戦」への関与を弱める

 トランプ氏の対シリア政策がどのようなものになるかは、大統領選挙戦において政策論争が希薄だったこともあり、今のところ分からない。シリア情勢に関して、彼は、バッシャール・アサド政権打倒よりも、イスラーム国壊滅を優先させるべきで、そのためにロシアと連携する必要があるといった趣旨の発言をたびたび行ってきた。それゆえ、アサド政権を武力で打倒しようとしている反体制派は、トランプ氏の当選に危機感を感じる一方、シリア政府内には楽観ムードが拡がっている。

 しかし、米大統領が就任後、ないしは任期途中で、前言を撤回して外交政策を転換することはいつものことで、トランプ氏が自らの言葉を具体化させ、堅持するという保障などない。それでも、現時点で言えることがあるとするなら、それは次期政権が「シリア内戦」への関与を弱めることはあっても、強めることはない、ということだ。そしてこのことは、バラク・オバマ現政権の対シリア政策の実質的な継続を意味している。

 オバマ政権の対シリア政策は、「人権」擁護や「保護する責任」を根拠にアサド政権に退陣を迫ることを基軸としていた。だが、2013年夏にダマスカス郊外県グータ地方で化学兵器使用疑惑事件が起こると、アサド政権を厳しく非難しつつも、シリアに対する軍事介入の目的を「体制打倒」から、化学兵器の再使用を抑止するための「懲罰」にすり替え、ロシアとのその後の折衝を通じて最終的には軍事行動そのものを中止した。シリアへの制裁や外交圧力はいずれも真剣さを欠き、時期を逸しており、アサド政権の復活を阻止するため、混乱を持続させようとしているだけにも見えた。

 イスラーム国がイラクのモスルを制圧し、「国際社会最大の脅威」と目されるようになった2014年半ばに、対シリア政策の軸足を「テロとの戦い」に移したオバマ政権は、今度はアサド政権打倒ではなくイスラーム国殲滅をめざす勢力を「反体制派」とみなすというすり替えを行い、政権存続を事実上黙認した。しかし、この「テロとの戦い」も、軍事規模、国際協調などあらゆる面で付け焼き刃的で、その成果がかたちを得たのは、ロシア軍によるシリア空爆が開始されてからのことだった。

【参考記事】ロシア・シリア軍の「蛮行」、アメリカの「奇行」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中