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LGBT世界に広がるLGBT迫害戦争
Illustration by Vahram Muradyan
<性的少数者への差別解消に向かう世界の潮流とは裏腹に、ホモフォビア(同性愛者嫌悪)による暴力事件は頻発している>(イラスト:国連加盟の13カ国では同性間の性行為が違法とされ、死刑になる可能性もある。今年6月、米フロリダ州のLGBT向けナイトクラブで起きた銃乱射事件の犠牲者は49人)
ここ数年、世界でLGBT(同性愛者などの性的少数者)の人権活動は大きな躍進を遂げてきた。そんななか、根強くはびこる偏見と憎悪を人々に突き付けたのが、先月中旬に米フロリダ州オーランドのLGBT向けナイトクラブで起きた銃乱射事件だ。49人を殺した犯人オマル・マティーンは、同性愛者を毛嫌いしていたとされる。
差別解消に向けた世界の潮流とは裏腹に、今もLGBTを狙った殺人や暴行は各地で多発している。「(オーランドの事件は)世界に広がる深い憎しみのごく一部だ」と、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のチャールズ・ラドクリフは言う。
FBIの統計によれば、ホモフォビア(同性愛者嫌悪)が生む暴力は、人種差別に起因する暴力に次いで多い。LGBTが全人口に占める割合は小さいにもかかわらずだ。しかも統計に表れる値は氷山の一角で、大半の事件は報告されない。
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LGBTを狙う残虐行為は昔から繰り返されてきた。98年には米ワイオミング州で同性愛を理由に激しい暴行を受けたマシュー・シェパードがフェンスに縛られた状態で発見され、後に死亡。12年にはチリの首都サンティアゴの公園で、同性愛者の青年ダニエル・サムディオ(24)が4人の男から暴行されて帰らぬ人となった。サムディオはタバコの火を押し付けられ、耳の一部を切断された上、ガラスの破片でナチスのかぎ十字を体に刻まれていたという。
皮肉にも最近は、各地で高まる人権運動がこうした暴力をあおる1つの要因になっている。LGBTの権利向上を訴える国連のキャンペーン「フリー&イコール」によると、一部の国では法的権利は大幅に向上したものの、その反動でLGBTを狙う暴力が急増しているという。
法律面での国家間格差も広がっている。チリでは、サムディオの事件を契機に改革の動きが加速。同性愛者への差別を禁じる法律が制定され、保守的な国柄にもかかわらず同性婚も合法化された。しかし一方で、いまだに同性間の性行為が違法とされ、死刑が適用される可能性のある国・地域は13もある。
LGBTの戦いに終わりが見えるのはまだ当分先のようだ。
[2016年7月19日号掲載]