最新記事

選挙

金融関係者が警戒する改憲勢力圧勝、首相のアベノミクス後回しを懸念

2016年7月6日(水)20時13分

 市場関係者の間では、10日に行われる参院選で安倍晋三首相の目指す憲法改正に賛同する勢力が圧勝した場合、首相の関心が「改憲」にシフトし、経済対策の優先順位が下がってしまうのではないかとの懸念が広がっている。

 国内報道各社の世論調査によると、自民党は、1989年以来27年ぶりに参議院で単独過半数を確保する可能性がある。公明党と合わせれば、安倍首相が目標としていた改選過半数の61議席を超えることはほぼ確実とみられている。

 安倍首相は、今回の参院選をアベノミクスに対する国民の支持を問う選挙と位置付けている。金融緩和、財政支出、構造改革というアベノミクスの三本の矢は、すでに効果が薄れてきているとの見方もある。

 参院選で圧勝すれば、安倍首相は政策が国民に承認されたと主張するだろうが、英国の欧州連合(EU)離脱や、7人の日本人が亡くなったバングラデシュの襲撃事件などのニュースによって、もともと薄かった選挙に対する関心がさらに薄くなり、投票率が低水準にとどまる可能性がある。

 その場合、自公の連立与党が圧勝しても、必ずしもアベノミクスが国民に評価されているわけではないとの解釈も成り立つ。

 大和証券・チーフ為替ストラテジスト、今泉光雄氏は、自民党が大勝して、改憲派が3分の2議席を占めるケースの方が、市場は嫌気しそうだとみている。「経済第一戦略から憲法改正に政策の軸足が移るのではないかと、警戒感が強まりやすいため」だという。

 さらに同氏は「自民党が大勝しても、アベノミクス政策には手詰まり感が強く、選挙で評価されたとポジティブに受け止める向きは少ないだろう」との見方だ。

=====
 ウィズダムツリー・ジャパンの最高経営責任者(CEO)、イェスパー・コール氏も「市場は、安倍首相が強い政権を維持することを望んでいるが、その勢力を、憲法改正ではなく、経済を第一に発揮してほしいと考えている」と言う。

 有権者の多くも、改憲派が圧勝することを歓迎しているわけではないようだ。時事通信が今月1─3日に行った世論調査によると、憲法改正に前向きな自民党など4党が、改憲発議に必要な3分の2の議席を確保することに「反対」と答えた人は49.6%で、「賛成」の31.5%を上回った。

 安倍首相は、憲法改正を選挙の争点にすることを避けているという批判がある。

 民進党など野党は、与党など改憲勢力による3分の2議席確保を阻止することを目標の1つに掲げている。岡田克也民進党代表は1日の会見で「安倍首相は、選挙期間中、全く憲法改正を語っていない。争点を隠して静かに選挙を終えたいのだと思う」と批判した。

 民進党、および選挙協力している野党連合は、苦戦を強いられている。有権者の間には、2009年─2012年の民主党(当時)政権時の党内の内部抗争と、政策の急変ぶりが、まだ記憶に強く残っているからだ。

 憲法改正の発議には、衆参両院でそれぞれ3分の2を超える賛成が必要。そのうえで、憲法を改正するには、国民投票で過半数の賛成を得ることが必要となる。

 (リンダ・シーグ 取材協力:伊賀大記 翻訳編集:宮崎亜巳 編集:田巻一彦)

[ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、財務長官に投資家ベッセント氏指名 減税

ワールド

トランプ氏、CDC長官に医師のデーブ・ウェルドン元

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中