最新記事

マイクロソフト

Windows10の自動更新プログラム、アフリカのNGOを危険にさらす

2016年6月9日(木)20時36分
スン・リー

Edmund Blair-REUTERS

 アフリカ大陸の中央に広がる中央アフリカ共和国のチンコ自然保護区。文明などどこ吹く風と言わんばかり、数千年の時を経てなお大自然の静けさを守っている。だが、ここで野生動物の保護活動を行うNGOのチンコ・プロジェクトはつい先日、思わぬ捕食者に出くわした──マイクロソフトだ。


The Central African Republic: The Chinko Project from Youngblood Films on Vimeo.

 先週、プロジェクトが所有するパソコンが、知らないうちに17.4ギガバイトのファイルをダウンロードをし始めていたのだ。原因はご存じウィンドウズ10の自動更新プログラム。またの名は「強制」アップグレードプログラムだ。

 ネット環境が整っているアメリカとは迷惑の次元が違う。慢性的な資金不足で固定回線もなく、ネット接続は高額の衛星通信に頼っているNGOにとっては死活問題だ。もしダウンロードが最後まで終わっていれば、通信料は8万7000ドルに上っていたという試算もある。

 自動更新に途中で気づいて中止させたプロジェクトの統括者ブライアンは、問題は経済的な損失だけではないと言う。「武装した密猟者に応戦するメンバーを誘導している最中の端末に強制更新が始まったら、死傷者が出ていたかもしれない」

 マイクロソフトは本誌の取材に対し、NGOには自動更新を止める「選択肢」もあったと回答した。「ウィンドウズ10の自動更新は、この機会に最も安全で高性能なソフトを利用してもらうためのもので、希望すれば更新日を変更したりキャンセルしたりすることもできる」

広がる共感の輪

 ブライアンがこの一件をソーシャルニュースサイトのRedditに投稿すると、思いがけず支持が広がった。なかには、非公式ながらマイクロソフトの社員も数人いて、一人は自動更新の手法について社内で議論するつもりだと言ったという。クラウドファンディングによる資金調達を申し出る人もいた。

 ウィンドウズ10の自動更新は、一部メディアで「マルウェア(悪意のあるソフト)」と揶揄されるほど評判が悪い。利用者の中には、マイクロソフトにネット通信料やその他諸々の経費の弁償を求める声もある。

【参考記事】MSウィンドウズ10更新ポップアップ、中国のネットでも批判の嵐

「世界のどこからも隔絶されたこの土地で、これだけ多くの人と繋がれるなんて驚きだ」と、ブライアンは言う。だが何と言っても最強なのは、ここまで強制アップグレードの触手を伸ばしてくるマイクロソフトだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米が関係改善望むなら応じる用意、次期政権の出方次第

ワールド

ガザで報道車両に空爆、イスラエルは戦闘員標的と説明

ワールド

台湾総統府、中国との有事想定した初の机上演習

ワールド

イスラエル右派閣僚がアルアクサモスク訪問、ガザ人質
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 4
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 5
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 6
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 7
    「とても残念」な日本...クリスマスツリーに「星」を…
  • 8
    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …
  • 9
    日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落
  • 10
    滑走路でロシアの戦闘機「Su-30」が大炎上...走り去…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 9
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 10
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中