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英EU離脱英国のEU離脱リスク、警戒される金融波及ルート
6月16日、英国が欧州連合(EU)を離脱した場合、警戒されるのは金融市場での波及ルートだ。写真はロンドンで2月撮影(2016年 ロイター/Toby Melville)
英国が欧州連合(EU)を離脱した場合、警戒されるのは金融市場での波及ルートだ。英国の景気悪化や離脱連鎖も懸念材料だが、あくまで長期的な影響。短期的には、過去の金融危機のような、金融市場での信用収縮が最大のリスクとなる。その場合、金融セクターへの不安要因となるマイナス金利拡大などの金融緩和で防げるか予断は許さない。
<拡大するハイブリッド証券>
英国がEUを離脱した場合、国債の格付けが引き下げられる可能性がある。現在はスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が最高位のAAA、ムーディーズがAa1(最上位から2番目)を付与しているが、もし離脱となれば、S&Pは2ノッチ引き下げる可能性があることを明らかにしている。
英国債の格付けは比較的高いが、英国の銀行格付け(S&P)は大手でAからBBBと大半が低い。国債が格下げされればドミノ倒しのように銀行にも波及するため、信用力低下によるカウンターパーティリスクが高まる。
格下げがあれば、英国の銀行が発行しているハイブリッド証券などの価格急落も警戒される。ハイブリッド証券とは、優先株や劣後債など、株と債券の中間の性格を持った商品。債券よりも利回りは高いが、ボラティリティも高い。リーマン・ショックの際には4割近く下落する商品もあった。
リーマン・ショック後の金融規制の強化で、自己資本における株と債券の境目が曖昧になり、ハイブリッド証券の市場は拡大。昨年末で60兆円程度、そのうち英銀行が発行しているのは約2割弱あると推計されている。
日本でも人気で、ポートフォリオの4分の1程度を英国の銀行が発行するハイブリッド証券で組成されている日本のハイブリッド証券投資ファンドも複数ある。
「ハイブリッド証券の価格急落で、ファンドの基準価格が急落し、解約請求が相次ぐ、もしくは相次ぐと予想されれば、ファンドを縮小させるために、ポートフォリオ内の他の商品も売らなければならなくなる」とマネックス証券・チーフアナリストの大槻奈那氏は警戒する。
ファンドの解約に伴う売りの殺到は、過去の金融危機にもみられた現象だ。
<警戒されるトリガー抵触>
英ポンドが急落すれば、英銀行の自己資本比率に大きな影響が出る。海外通貨の価値が対ポンドで上昇することで、英銀行の海外資産からの収益が計算上膨らむため、収益面ではプラスだ。しかし、同時にリスクアセットが増えることになり、自己資本比率は低下する。
英銀行のカウンターパーティリスクが高まり、それが信用収縮に発展すれば、金融危機の扉が開く事態に接近しかねない。英銀行が自己資本比率を改善させるために、海外資産を売却すれば、他国の金融市場に大きな影響が出る展開も予想される。
リーマン・ショック時のような金融危機を防ぐため、国際的な業務を担う金融機関に対し、新たな自己資本規制(バーゼル3)が2013年に導入された。バーゼル3では、金融機関に対し自己資本強化を求めており、実際、各金融機関の自己資本は厚みを増している。
ただ、バーゼル3で自己資本として算入が認められることになったCoCo債など新型ハイブリッド証券にはリスクもある。発行体である金融機関の自己資本比率が予め定められた水準を下回った場合、元本の一部もしくは全部が削減されたり、強制的に株式に転換されるトリガー条項があるためだ。株式に転換されれば希薄化が起き、銀行株の圧迫要因になる。
ハイブリッド証券の発行は世界的に拡大している。ムーディーズ・アナリティックス・ジャパンのシニア・ディレクター、水野裕二氏は「世界的にみれば、自己資本がトリガー抵触までの余裕が小さい一部の金融機関もある。市場で資産価格が急落し極端な損失が出るような場合、懸念が高まるかもしれない」と指摘している。
<「ブレグジット」と「グレグジット」の連鎖>
ギリシャリスクが再燃する可能性もある。ユーロ圏財務相会合は5月、ギリシャへの支援第3弾となる103億ユーロの融資実行で合意した。しかし、ギリシャの財政再建は進んでおらず、国内総生産(GDP)比3%相当の財政緊縮や、さらなる改革を行う必要があり、政権基盤も不安定だ。
英国がEUを離脱すれば、ギリシャのユーロ離脱に道筋を付ける可能性がある。「ブレグジット」と「グレグジット」が結び付けば、「未だギリシャ国債を保有している欧州の銀行に不安が広がる恐れが強まる」と、りそな銀行・アセットマネジメント部チーフ・エコノミストの黒瀬浩一氏は警戒する。
昨年からスタートした欧州のSRM(単一破綻処理メカニズム)によって、政府の直接的な銀行救済は難しくなった。救ってしまうとその後モラルハザードが生じ、無謀なリスクをとってしまうかもしれないという理念が背後にある。国から銀行に対する支援のレベルは低下しており、この面だけで言えば、金融危機は起きやすくなっている。
金融市場が大混乱を起こせば、日米欧の中央銀行は金融緩和で対応することも考えられる。しかし、大混乱の要因が単なる投資家のリスク回避ではなく、信用不安であった場合、マイナス金利拡大などの緩和策では、収益圧迫が懸念される銀行株が下落するなど「火に油を注ぐ」ことになりかねない。流動性供給以外に何ができるか、当局の対応に注目が集まりそうだ。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)