挑発行為に隠された北朝鮮の本音
ベルリンの秘密会合で驚きの提案が──平和協定を求める金正恩にオバマ政権はどう応えるのか
虚像と実像 粛清や核実験に走る暴君といわれる金だが常軌を逸した指導者と考えてはならない KCNA-REUTERS
2月のある寒い日の午後、ベルリンのヒルトン・ホテルに数人の元米外交官が駆け込んできた。向かった先は、洗練された内装の会議室。待っていたのは北朝鮮の政府高官だ。
2日間にわたる秘密会合で、北朝鮮側は驚きの提案をしてきた。最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が、朝鮮戦争(53年に休戦協定)に正式に終止符を打つ米朝協議を再開したがっているというのだ。
「再開?」と、首をかしげる読者もいるかもしれない。
実は、両国は昨年から非公式に、休戦協定に代わる平和協定を締結する可能性を探っていた。ところがアメリカ側が、交渉の議題に核開発問題を含めるよう要求。これを北朝鮮が突っぱねたため、調整は決裂していた。その直後の今年1月、北朝鮮は水素爆弾(と主張するもの)の地下核実験に踏み切った。
北朝鮮の4回目の核実験を受けて、米政府は北朝鮮の脅威に対処する新しい方法を探さなければと躍起になっていた。北朝鮮の新提案は、そんなタイミングで舞い込んできた。
ベルリンから戻った元米外交官らは、ホワイトハウス地下の緊急司令室で、バラク・オバマ大統領の国家安全保障顧問たちに北朝鮮側の提案を伝えた。北朝鮮は核実験を1年間停止する用意があること。その代わり、アメリカと韓国が毎年実施している合同軍事演習の中止を要求していること──。
【参考記事】北朝鮮がアメリカに平和協定要求――新華網は2015年10月18日にすでに報道
北朝鮮は1年前にも似たような提案をしている。だがアメリカ側は、直前に起きたソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントのハッキング事件(北朝鮮の仕業とみられている)への不快感から、提案を拒絶した。
だが今回、北朝鮮は以前よりも柔軟な姿勢を示してきた。核開発問題を交渉の議題に加えることも容認する姿勢を示している。オバマの大統領顧問たちは何も言わずに、元外交官らの報告にじっと耳を傾けた。
朝鮮戦争の終結はかねてから金が最重視してきた懸案事項の1つだ。平和協定を締結すれば、計数万人規模の在日・在韓米軍の脅威を取り除けると考えているからだ。金はその脅威に対抗する武器として、そしてアメリカ主導の攻撃に対する抑止力として、核備蓄を増やしてきた。
オバマ政権は失敗続き
朝鮮中央通信は1月の水爆実験の後、実験は「アメリカによる核戦争の危険から国の自主権と民族の生存権を守る」ための「自衛的措置」だと報道。「アメリカが理不尽な敵対的政策を撤回し、帝国主義的勢力が(北朝鮮の)主権侵害をやめた」とき初めて、北朝鮮は核開発計画を放棄すると報じた。