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南シナ海で暴れる中国船に インドネシアの我慢も限界

拿捕した漁船を中国に奪回されたインドネシア 。今後どのような戦略を取るか注目を集めている

2016年4月6日(水)16時13分
リスティアン・アトリアンディ・スプリヤント

南シナ海を航行する中国沿岸警備艇 Reuters TV-REUTERS

 中国の沿岸警備艇とインドネシアの巡視艇が3月半ばに、またも衝突した。場所は南シナ海のインドネシア領ナトゥナ諸島周辺。しかも過去の事例と異なり、中国側はインドネシアの領海すれすれまで進出した。

 事件の発生は3月19日の午後。インドネシアの排他的経済水域(EEZ)内で違法操業していた中国漁船を、インドネシア海洋水産省の巡視艇が拿捕し、乗員8人を逮捕した。インドネシア側は乗員全員の身柄を巡視艇に移し、漁船をインドネシアの海軍基地へと曳航し始めた。

 するとそこへ中国の沿岸警備艇が現れ、猛スピードで追尾し、インドネシア領海に入る寸前で漁船に体当たりし、曳航をやめさせた。

 さらに別の中国の警備艇も姿を現したため、インドネシア側は武力衝突を回避するために中国漁船を放棄した。すると中国の沿岸警備隊員が漁船に乗り込んで舵を取り、領海付近から去って行ったという。

 事件後、もちろんインドネシアのスシ海洋水産相は中国側に強く抗議した。国内世論の反発も高まっている。中国側は外交ルートを通じて、逮捕された中国漁船の乗員8人の釈放を求めているようだが、事態がどう動くかは微妙だ。

 実を言えば、昨年にもインドネシア当局が中国漁船を拿捕する事件があった。このときの漁船の排水量は4306トン。海洋水産省が外国船舶による違法操業の摘発に乗り出して以来、拿捕した船舶としては最大の「獲物」だった。

事件詳細を国内外に公表

 しかし何らかの理由で、インドネシア側は漁獲量に比して不当に低い罰金しか科さず、乗組員も船体も中国側に引き渡すことになった(その後、インドネシア海洋水産省は強硬姿勢に転じ、3月半ばには拿捕した別の違法漁船を海に沈めている)。

【参考記事】中国密漁船を破壊せよ インドネシアの選択

 中国側は以前から独自に設定した領海線、いわゆる「九段線」こそ南シナ海における中国の領海線だと主張しているが、これだとナトゥナ諸島周辺を含むインドネシアのEEZの一部が中国領ということになってしまう。

【参考記事】領有権拡大に突き進む中国の危険な火遊び

 インドネシア側は、もちろん九段線など認めない。自国のEEZで中国漁船が、中国の警備艇に守られて堂々と操業している事態は許し難い。

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