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企業不正の代償は重く、三菱自は顧客補償だけで1000億円以上か?
燃費を数パーセント良く見せようとした不正は、会社への評価を100%失わせた──
4月29日、燃費不正の代償は三菱自動車に重くのしかかりそうだ。写真は記者会見する相川社長、27日撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)
燃費不正の代償は三菱自動車<7211.T>に重くのしかかりそうだ。不正が確認された軽自動車4車種だけで、顧客などへの補償は1000億円超になるとの試算もある。追加調査で不正対象車が増えれば、その額はさらに膨らむ。ブランド毀損による販売減少が続く可能性もあり、業績悪化は避けられそうにない。
<特損1500億円の試算も>
燃費を5―10%良く見せるというデータ不正が発覚したのは、三菱自が2013年6月から生産した「eKワゴン」や日産自動車<7201.T>向けの「デイズ」など軽4車種約62万5000台で、日産向けは46万8000台と全体の7割超に上る。
三菱自は現在、不正対象車の購入者に対する補償内容を具体的に詰めている最中だが、まず強いられそうなのがエコカー減税の返納分だ。実際の燃費がエコカー減税の対象外であることが判明した場合、購入者は国や地方自治体に減税分を返還する必要があり、三菱自は返還分を負担する。実際の燃費が悪く余計にかかったガソリン代、イメージダウンによる中古車価格の下落分などの補償も同社は検討している。
野村証券では、エコカー減税返納分、ガソリン代、顧客へのお詫び料の3つの費用総額を425億―1040億円と試算。それ以外の費用も含め、三菱自の17年3月期に特別損失1500億円が発生すると予想している。
クレディ・スイス証券では、実際の燃費との差が約10%と仮定し、エコカー減税返納分、ガソリン代、中古車価格の下落分を顧客への補償額として試算。また販売停止が3カ月続く場合、工場の操業低下で150億円悪化すると推定し、燃費不正によるマイナスの影響を約650億―1150億円と見積もる。
三菱自の調査では、1991年以降に販売したほぼ全車種で国内法令と異なる方法で燃費試験用データを計測していたことも判明した。軽4車種だけでなく、現在販売中の他の9車種についても追加調査中で、その結果、不正対象車が200万台以上に拡大するとの試算もあり、補償額はさらに膨らむ恐れがある。
<日産へ販売機会損失も補償>
こうした顧客への補償に加え、販売店や部品メーカーへの支援費用も必要になる。軽4車種は不正公表後から生産販売を停止しており、停止期間が長引けば経営は厳しくなるからだ。また、日産に対する補償や法令違反の問題もある。
三菱自が日産に供給するデイズは15年度の軽販売台数で3位に入る人気シリーズ。日産に対する補償額は販売機会損失という点も考慮され、販売停止期間にもよるが、数百億円規模とアナリストらはみている。三菱自にとっては今後、日産との提携解消や次期共同開発車の中止というリスクもある。
このほか、正規に測定した実際の燃費との差が小さいとしても、三菱自の法令違反は疑いの余地がないため、国土交通省が何らかの行政処分を課す可能性がある。
<販売再開には3カ月以上の時間も>
軽4車種の販売再開には国交省による再認証が必要だ。同省は5月2日から軽4車種の燃費を再試験し、6月中に新たな燃費性能値を公表する。他の9車種も再試験を行う予定。
石井啓一国交相は28日の会見で、三菱自の不正に厳しい姿勢を示し、生産や販売に必要な型式指定を維持するかについて「全容が解明された上で判断したい」と述べた。同社は第三者による調査報告を3カ月後に公表予定で、早ければ7月にも販売が再開できそうだが、同省の対応次第でさらに先送りになる恐れもある。
不正対象車の買い取りを求める声もある。石井国交相も22日の会見で、同社に買い取りを含めた顧客への「誠実な対応」を求めた。ディーゼル車の排ガス不正問題を起こした独フォルクスワーゲン
<支払い能力には余地、補償総額は不透明>
三菱自は現預金(3月末時点で約4600億円)などから補償金を支払う予定。27日会見した田畑豊常務は「一般的に必要な運転資金は売上高の1カ月分(前期では単純計算で約1900億円)」と説明、差し引き約2700億円が補償の原資になるとみられる。
3月末の自己資本比率は48%と高く、同常務は「この2―3年で財務の健全性は大幅に強化されている」と指摘。有利子負債も300億円以下で「財務体質は強い」と述べた。金融機関にも、万が一の場合は「必要な資金調達をお願いすると伝えている」といい、支払い能力の余地を示した。だが、相川哲郎社長が「どのくらいかかるか残念ながら全体感がつかめていない」と話すなど補償総額の規模はまだ不透明だ。
前期営業利益の大半を稼いだ海外販売に影響が及べば打撃だが、今のところその情報は「来ていない」(相川社長)。同社が13―17年型の米国販売車に不正はないと27日発表したこともあり、現時点で米国での影響を懸念する声は少ない。ただ、国内での受注は不正公表後に半減しており、今後、不正の代償はさまざまな形で同社の経営を圧迫するとみられる。
(白木真紀、田実直美 編集:内田慎一)