トランプ外交のアナクロなアジア観
日韓との同盟は不公平な取引だ──暴言王の過激で怪しい主張が導く対アジア関係の不安定な未来は回避できるか
同盟不要論? トランプは「不公平」な日米安保条約の再交渉も考えているという Photo by Scott Olson/Getty Images
ドナルド・トランプの外交政策に対する考えとは、いかなるものか──。米大統領選の共和党候補指名レースで首位を独走する人物である以上、これは真剣に検証してみるべき問いだ。
幸いにも、米メディアには2カ月ほど前から、トランプの外交面での主張を読み解く記事がいくつか登場している。
ブルッキングズ研究所国際秩序・戦略計画責任者トーマス・ライトは、政治ニュースサイトのポリティコに寄せた記事で、トランプの世界観は首尾一貫していると指摘した。
その事実が示すのは、これまでの過激発言は建前ではないということ。発言は深い信念に基づくものであり、アメリカは世界において不当な扱いを受けていると、トランプは本気で考えている。
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ブルームバーグのコラムニスト、ジョシュ・ロギンは陣営顧問の顔触れや、外交政策の方向性を決める基本的信条という視点から「トランプ・ドクトリン」の実態を語っている。一方、タフツ大学のダニエル・ドレズナー教授(国際政治学)はワシントン・ポスト紙の記事で、実はトランプの主張こそが現実主義的外交姿勢の究極形ではないかと示唆した。
トランプの外交政策観の恐るべき問題点については、語っても語り足りない。とはいえここで注目したいのは、彼のアジアに対する姿勢だ。
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オバマ政権は、安全保障や外交の軸足をアジアに移すリバランス(再均衡)政策を掲げたものの、停滞気味だとの批判がある。だが「トランプ大統領」が誕生すれば、アジアとの関係強化は停滞するどころではない。東アジアを半世紀以上にわたって支えてきた対米同盟は終わりを迎え、日本や韓国、フィリピンは自力での防衛を迫られることになりかねない。
日本に関して言えば、トランプは日米同盟の在り方を嫌っている。日米安全保障条約は不公平な内容であり、本当の同盟ではないと考えているからだ。
確かに片務的かもしれないが、日米同盟は最初からそういう形でつくられている。それでもトランプは、アメリカには日本を守る義務があるのに、日本は同じ義務を課されていないと憤る。根っからのビジネスマンである彼にしてみれば、日米同盟は「悪い取引」なのだ。
日本の経済的繁栄は過去の話なのに
恐ろしいのは、トランプが本気でそう信じていること。そしてこの数十年、信念が少しもぶれていないことだ。
ブルッキングズのライトが指摘するように、アメリカで日本企業による買収が相次いでいた87年、トランプは公開書簡で訴えた。「日本をはじめとする国々にツケを払わせて、アメリカの巨額の財政赤字に終止符を打つ」べきだ、と。