最新記事

香港社会

香港で起こった「革命」はなぜ市民の支持を失ったか

旧正月に群衆と警官との衝突があり「魚蛋革命(フィッシュボール革命)」と呼ばれたが、その実態は暴徒の騒乱だった

2016年2月13日(土)06時03分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

暴力的なのはどちらか 香港・旺角地区で起こった騒乱の中、倒れ込んだ警官を蹴りつける暴徒(2月9日未明) E Weekly/Fu Chun-wai-REUTERS

 2月8日夜、旧正月当日の香港・旺角地区で、暴徒化した群衆と警官による衝突が起きた。警官が市民に銃を向けている印象的な写真が報じられたこともあり、香港の警察は暴力的すぎるとの印象を持った人も多いのではないか。当初は「魚蛋革命(フィッシュボール革命)」とも呼ばれ、2014年の「雨傘運動」の再来かと海外メディアでも取り上げられた。だが現地香港での論調は正反対で、暴徒批判の声が大勢を占めている。一体どんな事件だったのか、そしてどのような背景があるのだろうか。

「屋台文化を守るため」で、戦闘服を着た過激派が集結した

 8日の夜に何が起きたのか、香港のケーブルテレビ局i-Cable Newsによる映像がよくまとまっている。

【08:45更新】 【旺角徹夜衝突 六分鐘完整版】

【08:45更新】【旺角徹夜衝突 六分鐘完整版】

Posted by 有線新聞 i-Cable News on 2016年2月8日

 事件の発端は警察による移動式屋台の取り締まりだ。香港市街で移動式屋台は禁止されているが、旺角一体では旧正月だけは目こぼしされてきた。しかし今年は、安全のために火を使った調理だけは禁止することが決まった。事件前日も屋台店主が取り締まりに反発し口論になる一幕があったという。

 そして2月8日、「香港の屋台文化を守るため旺角に集まれ」との呼びかけがネットで広がった。平和的に抗議のプラカードを示す人、警官の暴力的行為がないよう監視しようと思っていた人などさまざまな人が集まっていたが、最初から騒ぎを起こすことを狙っていた過激派も存在した。過激派は警官隊とにらみ合いの末に衝突。おそろいの戦闘服をそろえていたり、盾を用意していたりと最初から準備は万端だったようだ。

 一方の警察はここまでの騒ぎになるとは予想していなかったようで、現場にいたのは軽装の一般警官ばかり。人数が多い暴徒は警官隊を圧倒。歩道を剥がして投石し、また直接襲いかかって殴打した。ヘルメットも盾もないなか、警官側には暴徒による殴打や投石で多くの負傷者が出ている。殴られて昏倒した者まで出たが、その警官が群衆に飲み込まれそうになった際、空に向かって空砲を撃つ威嚇射撃を行っている。

takaguchi160213-2.jpg

銃を向ける警官(旺角騒乱の生中継より)

 機動隊の到着後、暴徒たちは旺角各地に散らばり、道路でかがり火を焚いたり、タクシーを破壊するなどのゲリラ的活動を朝まで続けた。ビル密集地帯で火を焚くという危険行為もまた暴徒への批判を高めるものとなった。

 事前の呼びかけがあったため、現地には多くのメディアもつめかけていた。投石、威嚇発砲、かがり火など一部始終が写真、動画におさめられている。暴力行為の記録をやめさせようと、暴徒が記者に暴行するという一幕まであった。警官や記者、暴動参加者など計125人が負傷し病院で治療を受けたが、重傷を負った2人はいずれも警官だ。1人は女性警官で投石によって腕を骨折した。もう1人は威嚇射撃のきっかけとなった男性警官で殴打されて意識を失った。

takaguchi160213-3.jpg

事件翌日の旺角には暴徒に燃やされたゴミ箱が(筆者知人の撮影)

takaguchi160213-4.jpg

同じく事件翌日の旺角、投石のためにレンガを剥がされた歩道(筆者知人の撮影)

 パニックになった警官が投石を投げ返すという光景もあったが、暴徒側が先に手を出したことは報道から明らかだ。政府に批判的な野党ですら暴徒側を批判している。2014年に普通選挙実施を求めて学生たちが長期間、抗議の座り込みなどを行った「雨傘運動」の主導者である、学生組織「学民思潮」を率いるジョシュア・ウォンも、自分たちの活動はあくまで平和的なものだとして、暴徒とは一線を画することを言明した。メディアも強く批判している。香港メディア従事者連合会は、記者に対する暴行は報道の自由という香港の革新的価値を踏みにじるものとの抗議声明を発表した。

 今回の事件は当初、「魚蛋革命(フィッシュボール革命)」と呼ばれていた。魚蛋とは魚のすり身の団子で香港を代表するB級グルメだ。屋台を取り締まろうとする警察の横暴が人々を蜂起させたという含意を持つ。しかし暴徒側への批判が高まるなか、「魚蛋革命」という言葉は使われなくなり、暴徒に批判的な「旺角騒乱」という名称が定着している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加 ミサイ

ワールド

米政権、アリゾナ州銅鉱巡る土地交換承認へ 先住民反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中