最新記事

シリア内戦

人間を「駆除」するアサドの収容所、国連が告発

他人の下痢で感染死する環境や身の毛もよだつ拷問をいつまで放置するのか

2016年2月9日(火)16時55分
ルーシー・ウェストコット

戦場か拷問か アサド軍が大攻勢をかけるシリア北部の都市アレッポ Abdalrhman Ismail-REUTERS

 シリア政府は拘束した市民に対して「大規模かつ組織的な暴力行為」を働いている。拘束者に対する扱いは「駆除」に等しい――国連(UN)は2月3日付けの報告書でバシャル・アサド政権をそう非難した。

 シリアにおける悲惨な人権状況を監視する国連シリア調査委員会は報告書によれば、アサド政権は「戦場から離れた場所にある人目につかない」「公式の簡易収容所」で拘束した人々を殺害している。多くは殴打や拷問、非人道的な生活環境が原因で死亡しており、レイプや性的暴力、監禁、強制失踪といった「人道に対する罪」にさらされていたという。身内の女性に対する性的暴力の脅しも受けていたようだ。

凄惨きわまりない拷問

 報告書によると、政府に拘束されている間に死亡した人々のなかには、女性や子供、高齢者もおり、7歳の男の子も含まれている。火の付いたタバコで両目を焼く、性器を切除するなど、拷問の恐ろしい詳細も報告書には記されている。国連によれば、監禁と虐待には、シリア憲兵隊など「複数の政府機関」が関与しているという。

【参考記事】ISとの戦いで窮地、アサド「兵が足りない」

 一方で報告書は、反政府勢力も政府軍兵士を拘留・処刑してきたと書いている。ヌスラ戦線やISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)といった武装グループが収容所を設置して処刑を行ってきたという。反政府勢力と武装グループも「殺人や虐待、拷問などの戦争犯罪を行ってきた」としている。

【参考記事】アサド政権の「樽爆弾」が自国民を虐殺する

 今回の調査は、2011年3月10日~2015年11月30日の間に殺害された被害者を対象にしている。621人から話を聞いており、そのうち200人以上が、同房者が殺害されるのを目撃したと述べた。医療ケアの欠如や房内の過密状態のため下痢など予防可能な感染症で死亡した者もいた。

 拘束者の総数は公式に発表されていない。シリア政府が「調査委員会や他の国際人権監視機関に対して同国内への自由な立ち入りを一貫して拒んできた」ためだ。国連によると、常時、数万人が政府によって拘束されていると見られている。

 シリア内戦は来月で5年目に入る。その間に約25万人が死亡した。国連が主導する1月末にジュネーブで開催されるはずだったシリア和平協議は、ほとんど開始と同時に中断し、2月下旬に延期された。

【参考記事】シリア内戦終結を目指す地雷だらけの和平協議

 国連の報告書はこう指摘する。「これ以上の犠牲者を出さないために、緊急の対策が講じられねばならない。責任を果たすべきは、シリア政府と武装グループ、外国の支援者、より広範囲な国際社会だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

「ザラ」親会社、11月売上高10.6%増 8─10

ビジネス

英HSBC、ネルソン暫定会長が正式に会長就任 異例

ワールド

フォトレジストに関する貿易管理変更ない=対中出荷停

ワールド

ハマスが2日に引き渡した遺体、人質のものではない=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 10
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中