最新記事

ロシア

プーチンが築く「暴君の劇場」

厳しい経済状況に対する不満が高まる日に備えて、プーチン政権は着々と国民統制の手を打ち始めた

2016年2月8日(月)17時50分
オーエン・マシューズ

頼みの綱 80%を超す驚異の高支持率を支えるのはテレビを通じた愛国プロパガンダ Maxim Zmeye-REUTERS

 ロシアで「革命」が起きると主張するのは、ロシア・ウオッチャーたちの趣味のようなもの。しかし、14年3月のクリミア併合以降、そのたぐいの予測がますます目立つようになった。原油価格の急落と欧米などの経済制裁により、経済が大打撃を受けるはず、というのが理由だ。

 実際、ロシアの通貨ルーブルは半分に下落し、インフレ率は2倍に跳ね上がったのだが、ウラジーミル・プーチン大統領の支持率は80%台という驚異的な高水準を維持し続けている。対外的な軍事行動と愛国的プロパガンダのたまものだ。

【参考記事】ルーブル危機でロシア経済はもう手遅れ

 それでも、高支持率が続く保証はない。「14年がロシア政府暴走の年だったとすれば、15年はロシア国民がそのツケを払わされた年だった」と、ロシアの政治事情に詳しいブライアン・ウィットモアは最近ブログに書いている。「そして16年は、プーチン政権が持ちこたえられるかが問われることになる」

 プーチン政権も、社会不安が高まるときに備え始めたようだ。ロシア議会は先月、テロや武装攻撃の際に、治安機関が女性や子供、障害者を銃撃することを認める法律を成立させた。

 警察の予算全般が削減されるなかで、内務省の機動隊「オモン」の予算は聖域になっている。内務省は、グレネードランチャー(榴弾砲)など暴動鎮圧用の武器の備蓄も増やし始めた。

 モスクワの国営オスタンキノ・テレビのテレビ塔周辺には、新しい有刺鉄線フェンスが張り巡らされた。ボリス・エリツィン大統領時代の93年10月のように、反大統領派の襲撃を受けて占拠されることを防ぐためだ。常駐する警備チームも、旧ソ連の強大な治安機関KGBの流れをくむ連邦保安局(FSB)の精鋭部隊に格上げされた。

冷蔵庫とテレビの戦い

 テレビは、プーチン人気の基盤を成すナショナリズムの熱狂をあおる上で欠かせない役割を担ってきた。物価上昇と生活水準の下落で国民生活が痛め付けられているにもかかわらず、プーチンが高い支持率を維持できているのは、テレビを通じてナショナリズムを刺激してきたからにほかならない。

 厳しい生活実感と政権によるプロパガンダ──この両者の綱引きを、ロシア国民は「冷蔵庫とテレビの戦い」と呼ぶ。現時点では、冷蔵庫が優勢になりつつあるようだ。モスクワの独立系世論調査機関レバダセンターの最近の調査によると、テレビニュースを信用しているロシア人の割合は、09年の79%から41%まで落ち込んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中