エジプト政府の弾圧でムスリム同胞団が過激化
非暴力主義を貫く旧世代が求心力を失い、若手メンバーがISISに移る恐れも
最悪の人権侵害 今年6月、モルシらに下された死刑判決に対して抗議の声を上げる人々 Amr Abdallah Dalsh-REUTERS
エジプトで「アラブの春」が起きて4年以上。反政府組織だったムスリム同胞団のムハンマド・モルシは民主化後、選挙で大統領の座に就いた。だが13年の軍による事実上のクーデターで排除され、今は死刑判決を受けた身だ。岐路に立つ同胞団は今後、どのような道を進むのか。
シシ大統領率いるエジプトでは、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのジョー・ストークが「記憶するなかで最悪の人権侵害」と呼ぶ状況が続いている。特に同胞団への弾圧はひどく、モルシ失脚以来、多くのメンバーが逮捕や国外追放になった。トルコなどに逃げおおせたのはごく少数の幹部だけだ。
昨年、同胞団の最高指導者モハメド・バディや、モルシ支持者682人が死刑を言い渡された裁判はわずか8分で結審。そんな「政治裁判」で、モルシも今年6月に死刑を言い渡された。
だが同胞団の支持者は、挑戦的な姿勢を続ける。シシ政権下で収監され、今はトルコ在住の同胞団の元活動家ムスタファ・エル・ネムルは人々の反撃を予想する。「シシに恨みを抱く人々を抑え込むことは、不可能に近い」
同胞団は数十年にわたり、非合法組織として政府に抑圧されてきた。それゆえ結束は固い。「入団には厳しい手続きがある」と、ブルッキングズ研究所のシャディ・ハミドは言う。入団希望者は5~8年かけて教義をたたき込まれ、徐々に正式なメンバーとして認められる。
ワシントン中近東政策研究所のエリック・トラガーによれば、同胞団は「厳格な方法で個人をイスラム化させ、それを家族や社会、国家、ひいては世界に広げようとしている」。
同胞団が人々を引き付ける理由の1つが、政治的イスラムと社会福祉事業の融合だ。彼らは70年代に公に暴力を否定し、
教育活動やスポーツ施設の運営などで大衆の支持を得てきた。この方式をセネガルからロシアまで多くの国で実践。ハミドの推計ではエジプトには現在50万人ほどのメンバーがおり、多くは毎月収入の約15%を寄付する。
暴力否定派と暴力容認派
シシ政権の弾圧は同胞団を壊滅させることはないが、組織を根本的に変えるだろう。内部では長年、非暴力を貫くグループと、状況によっては暴力を容認するグループが対立している。多くの幹部が逮捕や国外追放でいなくなった結果、世代交代が起きたとハミドは指摘する。「エジプトにいる若いメンバーが主導せざるを得なくなった」