南シナ海、民間人の「入植」が対中国の切り札か
実効支配の既成事実化のため各国が居住用インフラの整備を急ぐ
5月29日、中国が進める人工島建設が注目を集める南シナ海情勢だが、同海域一帯で増える一般市民の存在も領有権問題では重要な意味を持つと専門家は指摘する。写真はフィリピンが実効支配するパグアサ島で11日代表撮影(2015年 ロイター)
[香港/マニラ 29日 ロイター] - 中国は南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で人工島の建設を進めており、その軍事利用の可能性をめぐる議論が過熱している。一方、そうした問題に隠れ、ほとんど注目されていないことがある。それは、南シナ海一帯で増えつつある一般市民の存在だ。
ベトナムとフィリピンがそれぞれ実効支配する小さな島では、子供たちが毎日学校に通っている。そこからさほど遠くない場所では、中国が灯台や気象観測所を建設している。領有権をめぐる争いが高まるなか、このような傾向は今後起こり得る軍事衝突を複雑にする恐れがある。
同海域の大半の島は台風などの災害に無防備で真水も少ないため、こうした動きは小規模な範囲に限られるとみられている。しかし専門家たちは、領有権を争う他の国々にとって、市民生活の積み上げは重要な意味を持つと指摘する。
東南アジア研究所(シンガポール)の南シナ海専門家、イアン・ストーリー氏は「法的立場を確実に強化する。軍事だけでなく、一般市民も含めることで効果的な統治を明確に示すことができるからだ」と指摘。そのうえで、「南シナ海の領有権問題が国際司法裁判所に付託された場合、そのことが重要となるだろう」と語った。
中国は南シナ海の大半で領有権を主張。年間5兆ドルの貨物が行き交う海上交通の要衝である同海域では、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾も一部領有権を主張している。ブルネイ以外は、南沙諸島に軍施設を有している。
同諸島で中国は少なくとも滑走路1本や他の軍事施設の建設を押し進めるが、同国当局はこうした作業の民間的な側面を強調している。
中国外務省国境海洋事務局の欧陽玉靖局長は、国営メディアに対し、中国は南沙諸島での施設を軍事利用する「あらゆる権利」があるとしたうえで、施設は「主に民間目的」に使われるだろうと語った。
同局長はそうした民間利用の例として、海難救助や防災、科学的研究、気象観測などを挙げた。26日の国営メディアの報道によると、中国は南シナ海で灯台2基の起工式を行った。