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「中国キラー」インドの知られざる国内事情と思惑

世界は中国の抑え役としてモディ政権に期待するが、インドは中国と張り合う一方で深い提携関係にもある国だ

2015年5月28日(木)12時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

真意はどこに? 中国・西安市で兵馬俑を見学するモディ China Daily- REUTERS

 インドのモディ政権が経済成長への期待を担って発足してから1年になる。グジャラート州首相時代、規制緩和と外資導入で成果を挙げたモディだが、彼と彼を金融面から支える準備銀行(中央銀行)総裁ラグラム・ラジャンのチームはまだ目立った結果を出していない。

 世界がモディ政権にかけた期待は2つある。1つは停滞色を強める中国に代わって、世界経済の機関車と直接投資の受け皿になってくれないか、というもの。もう1つは中国に対する抑えとしての役割である。しかしインドの経済は伸びたと言っても、とても中国に取って代わる段階にはない。むしろ中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加入を表明したり、最近もモディが中国を訪問して経済面での協力深化に合意したりと、とても中国に対する「抑え役」とは言えない。

 多くの人はインドが「カーストがあるから発展しない」と言う。しかし遅れた経済において、カーストは特定の階層に職を保証するギルドのようなもので、経済が進むと後退する。例えばIT企業など新しい業種においては、カーストはもはや意識されていない。モディ首相自身、出自は低位のカーストである。

 経済成長を阻害している1つが、独立以降インドが採用したソ連型の社会主義経済の残滓しである。外国製品と外国資本を締め出していたため、遅れた国内企業が既得権益を築き、規制緩和と自由化に抵抗している。発電量の50%以上を支える石炭産業は国営で、低価格に抑えられている発電用石炭の供給増に応じず、民営化と外資導入には抵抗している。大型のショッピングセンターはまだ少なく、外国製自動車の輸入・現地生産自由化も80年頃からかなり時間をかけて進められている。

利害が複雑に絡み合うインドを甘く見るな

 もう1つは英国植民地時代の遺産なのだろうが、「権利」があふれていることである。29ある州の多くは地元言語も公用語としており、経済法制や規則も州間の差が大きい。そして現在の連邦議会でモディのインド人民党(BJP)は上院での過半数を持っておらず、既得権益を破る法案を通しあぐねている。

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