コバニ奪還で揺らぐ「イスラム国」の支配
国籍を越えて団結したクルド人と「有志連合」の空爆がもたらした大きな勝利
世界が注目 コバニ攻防戦は逐一トルコ側からテレビカメラで捉えられ、世界に報道された Yannis Behrakis-Reuters
シリア北部の都市コバニへの、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の攻撃は昨年7月、世界のメディアもほとんど気付かないうちに静かに始まった。
その時点でISISは、イラク北西部の大部分を制圧していた。準備不足で士気の低いイラク軍を敗走させ、多くの重兵器を奪っていた。その後ISISは、東にある首都バグダッドではなく、クルド系住民が暮らすシリア北部のコバニ周辺へと矛先を向けた。
コバニをめぐる攻防は、シリア内戦で最も注目される戦いとなった。
戦闘前、コバニに暮らす住民は約4万5000人で、大きな都市ではない。しかしコバニ攻防戦は、ISISに反撃するアメリカの戦略上、象徴的な意味を持ち、そして重要なテストケースだった。
一度ならず「コバニ陥落」が予測されたにもかかわらず、今週クルド人部隊はISISを街から追い出し、周辺地域にまで後退させたと宣言した。
なぜ勝利できたのか? 誰にも止められないと思われたISISの侵攻を、これと言って特徴のない街がどうやって阻止したのか?
「陸の孤島」コバニ
コバニがISISの標的となった理由は、地図を見れば明らかだ。街の規模は小さく、シリア国内の他のクルド地域とは離れている。まるでISIS勢力圏内の「離れ小島」だ。
街の北側にはすぐにトルコ国境が控えている。街中での爆発や砲弾が発射される際の煙がトルコ側の丘の上からテレビカメラで捉えられた。
ISISにとってコバニ攻略の戦略的意義は大きい。長大なトルコ国境を掌握すれば、トルコからシリアへの兵士の入国が容易になり、さらにシリア北東部のクルド勢力の反撃を大きく分断することができる。
ISISはまず街の西部の集落を占領し、9月までには周辺の300の集落と市街地の半分も掌握した。
状況は厳しかった。数万の避難民が、街道沿いに車を乗り捨ててトルコ国境に押し寄せた。負け知らずのISISに立ち向かったのは、十分な武装もないクルド人の民兵組織、人民防衛隊(YPG)と街に残された住民たちだった。