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事故水の事故は静かに起きる
ドラマチックに助けを呼ぶのは映画の中だけ。騒いでいた子供が静かになったら要注意
要注意 溺れかけている人は助けを呼ぶことができない Sergio Dionisio-Bloomberg/Getty Images
ザブン! そのフィッシングボートの新米船長は、突然海に飛び込むと、ビーチに向かって一直線に泳ぎ始めた。
「あの船長、君が溺れていると思ってるんじゃないかな」と、夫が妻に言った。そして「大丈夫ですよー!」と叫ぶと、手を振って「来なくていい」と合図した。それでも船長は懸命に泳ぎ続けている。「どいて!」
あっけに取られる夫婦をよそに、元ライフガードの船長は夫婦の3メートルほど後ろで溺れかけていた9歳の少女を助け上げた。ようやく水面に顔を出した少女は、初めて「パパ!」と声を上げて泣き出した。
なぜ父親はたった3メートル後ろで娘が溺れているのに気付かず、15メートル離れた船の上にいた船長は気付いたのか。元ライフガードの筆者に言わせれば、こうしたことは決して珍しくない。
たいていの場合、人が溺れるときは静かなものだ。テレビや映画で見るような大声で助けを求めたり、誰かに手を振ったり、派手にバシャバシャと音を立てることはめったにない。
実際、水の事故は15歳以下の子供の事故死で2番目に多い原因(1番は交通事故)だが、その半数は親から約25メートル以内で起きるといわれている。
静かに溺れる5つの理由
人間は溺れかけると、窒息しないように「本能的な水溺反応」と呼ばれる行動を取る。これを最初に提言したフランセスコ・A・ピア博士は、米沿岸警備隊の機関誌オン・シーンで次のように説明している。
1)ごくまれな場合を除き、溺れかけている人は助けを呼ぶことができない。呼吸器官は呼吸を最優先するようにできており、発声は二次的機能にすぎない。従って満足に呼吸ができないなら声は出せない。
2)溺れかけている人は、顔が水の上に出たり沈んだりを繰り返す。顔が水から出ている短い時間は、息を吐き、酸素を吸い込むのに精いっぱいで、声を出す前にまた沈んでしまう。
3)溺れかけている人は手を振って助けを求めることができない。人間は溺れかけると、本能的に両腕を水平に広げて水をかき、体のバランスを取ろうとする。そうすることで顔を水の上に出し、呼吸しようとするからだ。
4)溺れかけている人は自分で腕の動きをコントロールできない。水中でもがいている人がその動きを自分の意思でストップして、手を振ったり救援者のほうに移動したりするのは生理学的に不可能だ。
5)本能的な水溺反応を示している間、その人の体は水中で垂直の姿勢のままで、足は効果的なキックができない。このため溺れ始めてから20秒〜1分で体は水中に沈み始める。
では、大声で助けを求めている人は放っておいても大丈夫かというと、そうとも限らない。ただ、この段階では水中で疲れ切っている状態なので、必ずしも溺れるわけではなく、自力で難を逃れられる場合もある。
沖釣りやクルージングに出かけたとき、仲間が海に飛び込んで平気そうな顔をしていても、よく観察する必要がある。溺れかけているのに、そうは見えないことはよくある。ただ足をバタバタさせて船を見上げているようにしか見えないのだ。
では溺れかけているのか、そうでないかを確かめる方法はあるのか。もちろんある。「大丈夫?」と声を掛けることだ。相手が答えられるなら、おそらく大丈夫。ぼんやりこちらを見ているだけなら、30秒以内に助け出す必要があるかもしれない。
子供を海やプールに連れて行く親には、もっと分かりやすい方法がある。水遊びをしている子供はキャッキャと声を上げるもの。静かになったら要注意だ。面倒がらずに子供の近くに行って理由を確かめよう。
[2013年7月30日号掲載]