最新記事

中国政治

ソ連末期に似てきた? 習近平政権に迫る「限界」

メディアと世論を締め付け、特権階級を拡大し、個人崇拝を復活させる――現在の共産党政権は崩壊の足音が迫っていたブレジネフ時代のソ連と酷似している

2013年6月28日(金)15時46分
喩塵(ジャーナリスト)

建国者っぽく 習近平は共産中国の父である毛沢東とイメージが似ている Petar Kujundzic-Reuters

「人治」の国と呼ばれた中国で、改革派の知識人たちはずっと「法治」と憲法に基づく政治の実現を求めてきた。最近、北京の知識人たちが集まって会食すると、決まって話題になるのが「憲政」の2文字だ。もちろん憲法問題だけでなく、そこには民主政治や自由、人権についての議論が含まれる。それぞれがそれぞれの考えを激しくぶつけあうが、最後は全員が沈黙する。初夏の北京の、何とも薄ら寒い風景だ。

 この議論は、去年の秋に共産党の新しいリーダーが決まってから始まった。習近平(シー・チンピン)と李克強(リー・コーチアン)が昨秋、事実上中国のリーダーになってから、今年の春にそれぞれ国家主席と首相に就任するまでの半年間、人々は注意深く2人を観察していた。ただ「実習期間」を半分も過ぎると、知識人たちは「実習生」2人の言動に失望させられた。

 さらに人民日報やその系列のタブロイド紙環球時報、軍の新聞である解放軍報、党機関雑誌の紅旗文稿といった共産党系メディアが5月末、そろって「憲政」を否定する記事を掲載した。記事によれば、「憲政とは、あれこれ言っているが要するに社会主義の道を否定するもの」でしかない。習近平に対して抱いていたはかない希望は、この「冷や水」ですっかり打ち消されてしまった。

 今年の初め、南方週末に対する当局による検閲が問題になった時、環球時報は騒ぎの首謀者を「アメリカにいる(盲目の人権活動家)陳光誠(チェン・コアンチョン)だ」と決め付けた。その後、メディアを統括する共産党中央宣伝部は全国各地の新聞にこの文章を転載するよう命じた。改革派に対する「死刑宣告」だ。環球時報に「死刑執行」の刀を渡したのは、習近平なのだろうか。

 あまり注目されていないが、最近国家インターネット情報弁公室という組織が政府内で格上げされた。これはネットでの活発な議論に対する管理強化にほかならない。天安門事件の記念日である6月4日の前には、全国各地で改革派が拘束されたという情報が水面下で駆け巡った。

 ただ、共産党が思想や世論を統一することはとっくに難しくなっている。反体制派を拘束し続けているが、反体制派の数は増えている。今から10年前、中国では公安部国内安全保衛局(国保、中国語の発音をもじって国宝、さらに国宝から熊猫[パンダ]とも呼ばれる)に事情聴取されるのは非常に恐ろしいことだった。最悪の場合、職場から辞職を迫られる危険もあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、WTOでトランプ関税を非難 「一方的で世界貿

ワールド

中国、ウクライナ和平努力を支持 ガザは「交渉材料で

ワールド

新興国市場への純資金流入、1月は約354億ドル=I

ビジネス

米経済は良好、物価情勢の進展確認まで金利据え置く必
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 2
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 3
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防衛隊」を創設...地球にぶつかる確率は?
  • 4
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 7
    祝賀ムードのロシアも、トランプに「見捨てられた」…
  • 8
    ウクライナの永世中立国化が現実的かつ唯一の和平案だ
  • 9
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン...ロシア攻撃機「Su-25」の最期を捉えた映像をウクライナ軍が公開
  • 4
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 5
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 8
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中