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大量破壊兵器

シリア体制崩壊ならアメリカはどう動く

アサド政権は生物化学兵器に加えて核関連物質を隠している可能性もある

2012年8月30日(木)13時04分
イーライ・レイク(軍事問題担当)

悪夢 ダマスカス市内を移動するアサド派の部隊 Shaam News Network-Reuters

 シリア情勢はアサド政権の崩壊過程に入ったようだ。そのためCIA(米中央情報局)は、生物化学兵器の所在確認に全力を挙げ、バシャル・アサド大統領の失脚後に権力を掌握するとみられる反体制グループの構成や背景の分析を進めている。

 複数の米政府当局者によれば、CIAはシリアの兵器開発計画を把握するため、既に要員を中東地域に派遣済みだ。当面の重要任務は大量破壊兵器の情報をできるだけ多く集めることだと、対シリア情報チームに近い当局者は語る。
さらに電話の傍受記録や電子メール、衛星写真などを精査し、大量破壊兵器の正確な所在を突き止めることにも力を入れるという(CIAの広報担当者は先週半ばの時点でコメントを拒否している)。

 任務はここ数日で緊急性を増した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は7月13日、シリア軍が化学兵器を貯蔵施設から移動させていると報じた。

 16日には、アサド政権から離脱したナワフ・ファレス前駐イラク大使がBBC(英国放送協会)に対し、アサド政権は化学兵器を躊躇なく反政府勢力に使用するだろうと語った。さらに18日、ダマスカスで発生した爆弾テロでダウド・ラジハ国防相と大統領の義兄が死亡。アサド政権崩壊の可能性を指摘する声が強まった。

 米下院情報特別委員会のマイク・ロジャーズ委員長(共和党)は、具体的にどのような情報収集手段がシリアに配備されたのか、CIAの要員はシリア国内に入国したのかといった詳細の確認を拒んだ。

 それでもロジャーズによれば、オバマ政権は先日、「生物化学(兵器)、反体制勢力、政権移行戦略について適切な判断を下すために欠かせない情報の収集に必要な資源」をシリアに配備した。ただし、「現体制が明日瓦解した場合にも万全な対応を取れるようにするために、どの程度の情報が必要なのかは不明だ」という。

大量破壊兵器発見は急務

 化学兵器禁止条約(CWC)は同兵器の使用・貯蔵・生産を禁じているが、シリアは調印していない。中立系のシンクタンク、米国平和研究所の中東専門家スティーブン・ハイデマンによれば、シリアは「莫大な」量の化学兵器を貯蔵している。

 オバマ政権にシリア反体制勢力への武器供与などを働き掛けているワシントンのロビー団体「シリア・サポートグループ」のブライアン・セイヤーズはこう語る。「アメリカが急いで行動を起こさなければ、シリアに権力の空白が生じるリスクはかなり大きい。化学兵器が(レバノンのシーア派組織)ヒズボラのような『ならず者集団』に拡散する恐れもある」

 02〜09年に国務次官補(軍備管理協定の検証・遵守・履行担当)を務めたポーラ・ドサッターは、生物兵器に対する懸念はさらに大きいと指摘する。軍備管理・不拡散協定の遵守状況をまとめた11年の国務省報告書には、シリアが生物兵器を使用するかどうか、生物兵器禁止条約に違反したかどうかは「不明確なまま」だと書かれている。

 アメリカと国際社会は07年にイスラエルの空爆で破壊された核施設の核関連装置が残っていないかどうかも確認すべきだと、ドサッターは指摘する。さらに03年の米軍によるイラク侵攻の前に、大量破壊兵器関連の物質や技術がシリアに移転されたかどうかも定かではないという。

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