最新記事

中南米

メキシコの独占企業と貧困、暴力と戦う

次期メキシコ大統領の最有力候補が語る「麻薬組織との戦争」と新経済ビジョン

2012年6月27日(水)16時10分
ラリー・ウェーマス

ニエトが大統領選に勝てば、制度的革命党にとって12年ぶりの政権復帰となる Claudia Daut-Reuters ニエトが大統領選に勝てば、制度的革命党にとって12年ぶりの政権復帰となる Claudia Daut-Reuters

 最近の世論調査によると、7月1日投票のメキシコ大統領選は野党・制度的革命党(PRI)のエンリケ・ペーニャ・ニエト候補(45)が優勢だ。このまま行けば、かつて70年間の長期支配を続けたPRIにとって12年ぶりの政権復帰となる。

 だが前途には難題が待ち構えている。カルデロン現大統領が「麻薬組織との戦争」を宣言して以来、メキシコでは5年間で5万人が犠牲になった。選挙運動中のニエトに元本誌記者のラリー・ウェーマスが話を聞いた。

──大統領になったらどんな暴力対策を打ち出すのか。

 まず暴力事件を減らす。特に殺人、誘拐、ゆすりの撲滅に力を入れる必要がある。

──そのための方法は?

 何よりも連邦政府と州政府、自治体が戦略を共有することだ。(カルデロン政権は)犯罪組織の撲滅に力を入れてきたが、私は暴力の減少を優先課題にする。

 今までは州と連邦政府が張り合い、それぞれ勝手に動いていた。連邦政府は州との協力に消極的で、もっぱら連邦警察の強化にばかりカネを使ってきた。

 私も連邦警察の強化は続けるが、州警察も量と質の両面でテコ入れが必要だ。

──最も重視する政策は?

 国民の生活状況を変える必要がある。ポイントは経済成長と雇用機会の拡大だ。

──独占企業を解体せずにどうやって目標を実現するのか。

(独占企業の解体は)必ずやる。それが競争原理導入の第一歩だ。

──与党時代のPRIは独占企業を解体しなかった。

 やろうと努力はした。それに当時と今とでは状況が違う。現在のPRIには、メキシコ経済の成長に必要な改革を支持する社会の強力な後押しがある。

──(現与党の)国民行動党(PAN)は州知事に多くの権限を与えた。一方、与党時代のPRIは権力を独占していた。

 過去の連邦制は今とは違う。当時のメキシコはまだ民主主義が成熟していなかった。今では(民主的な)統治はメキシコの一部になっている。

 私が尊敬するフォックス前大統領は、年7%の成長を目標に掲げた。カルデロン現大統領は「私の政府は雇用をつくり出す政府だ」と言った。私の政府は経済成長と雇用創出の両方を目指す。

──では、メキシコ石油公社(ペメックス)への外資導入を認めるのか。

 ペメックスの経営は効率的な経営とは言い難い。もっと生産性を上げる必要がある。今こそ石油の探査と精製に民間の参入を認める改革のチャンスだ。

──民間の投資を認めれば、ペメックスの原油生産量が上がり、国庫が潤うと思うか。

 もちろん。05年の生産量は最大で日量340万バレルだったが、今は当時より100万バレル少ない。

──対米関係についてはどうか。

 アメリカ、メキシコ、カナダというNAFTA(北米自由貿易協定)参加国の経済統合を強化し、地域全体の生産性を向上させるために新たな協定が必要だ。今の世界は地域ブロックに分かれている。地域間の競争は、1国でやるより力を合わせてやるほうが有利だ。

──独占企業を抑え込み、自由競争を促進することは可能か。

 可能だ。現在の安定した経済状況を維持した上で、あらゆる分野で徹底的に競争を促す。独占企業と戦う規制当局の権限を拡大することも必要だ。

──貧困対策への取り組みは?

 カルデロン政権の6年間で貧困層は1200万人増え、今では6000万人近い。対策の1つは社会保障制度改革だ。今は国民の44%しか社会保障の恩恵を受けられない。私はそれを全国民に広げることを目指す。

© 2012, Slate

[2012年6月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は小幅上昇、中国の景気刺激策への期待で

ビジネス

市中向け発行増額172.3兆円、脱日銀へ長期化是正

ビジネス

2024年市場予測の誤算、AIブームで米国主導の株

ビジネス

日航、サイバー攻撃で国内・国際線運航に遅延 標的の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 4
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 5
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 6
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 7
    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …
  • 8
    ウクライナ特殊作戦による「ロシア軍幹部の暗殺」に…
  • 9
    日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落
  • 10
    中国経済に絶望するのはまだ早い
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 9
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中