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中東軍に乗っ取られた? 新生エジプトのピンチ
反政府デモの間は民衆の味方を演じた軍部が行政、立法、司法の三権を掌握、本性を表した
次も独裁 ムバラクを倒した民衆の英雄的な戦いも水の泡 Reuters
エジプトの大統領官邸に、反政府勢力が押し寄せた訳ではない。国営放送局が突然占拠されたり、真夜中に政治家が処刑された訳でもない。
しかし先週からカイロで起きている出来事を、多くのエジプトの専門家は「軍事クーデター」と表現している。「戦車ではなく司法によるクーデターだ」と、カイロ・アメリカン大学の歴史学部長ハレド・ファハミは言う。
今月16日にエジプト大統領選の決選投票が締め切られた1時間後、暫定統治を行う軍最高評議会(SCAF)は、行政権だけでなく立法権と無期限の憲法統治権を自らに付与する憲法令を発布した。この2日前には最高憲法裁判所が、昨年11月〜今年1月に選挙で選ばれた人民議会(下院)の議員の3分の1が違法に選出されたとして、議会を無効とする判断を下したばかりだった(軍はその後、下院を解散してしまった)。
大統領選の非公式の途中集計では、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」が支持するムハンマド・ムルシが僅差で過半数を獲得し、アフメド・シャフィク元首相を下したとされている。
しかし軍部の権限拡大によって、選挙結果はほとんど意味を持たなくなった。新大統領に残されたのはうわべだけの権力だ。
軍部は今月30日にすべての統治権を文民政府に移譲すると約束している。しかし新たな憲法と議会ができるまで、司法権だけは軍部が継承するという。
「事実上の『国家内国家』が設立された」と、長年エジプトの軍事問題を分析してきたファハミは語る。「SCAFを定義する法律をSCAF自身が立法する。それを誰が止められるのか? 法の支配の深刻な危機だ」
「市民の擁護者」だったはずが
以前のエジプト軍は、影響力は大きいもののもっぱら舞台裏で活動してきた。しかし昨年、ムバラク政権が民主化運動によって崩壊した後は、暫定的な統治者となった。
打倒ムバラクを掲げる反政府デモが吹き荒れた昨年1月、軍は戦車を街頭に出動させたが、反体制派の市民に向かって発砲したりしないと約束。市民は兵士たちを自分たちの味方として歓迎した。
昨年2月には軍部の将軍たちがムバラクに引導を渡し、その後も生まれたばかりの民主主義の擁護者の役割を果たしてきた。「議会が選出されて憲法が制定されるまで、当時の状況では軍部がこうした役割を担う必要があった」と元准将の軍事アナリスト、モハメド・カドリーは言う。
ところが新憲法の下でも、軍部は特権にしがみつき、ムスリム同胞団が支持する自由公正党や民主主義活動家たちの妨害をするようになった。
決選投票の直前には軍警察の逮捕権限を拡大する決定が発表された。
SCAFの狙いは権力ではないかと疑念を抱いていた人々にとってさえ、今回の憲法令は驚きだった。「軍部の独断は予想を遙かに超えるものだ」と、ファハミは言う。「軍部は憲法を自ら作り、法律を作り、それを執行しようとしている」
カイロ郊外ギザ地区のムスリム同胞団の組織幹部アミル・ダラーグも、「エジプト政界に対する開戦宣言だ」と危機感を強めている。「エジプト政治には、文民勢力がもう一人も残っていない」