最新記事
英王室「エリザベスEU女王」が欧州を救う
分裂の危機に瀕するヨーロッパには、エリザベス女王のような君主が必要だ
資格は十分 格式ばった王室と活気ある民主主義を両立したエリザベス女王(6月5日、ロンドン) Andrew Winning-Reuters
イギリスのエリザベス女王に手紙を出すときの宛て先は、「Her Majesty The Queen(女王陛下)」だけでいい。住所はもちろん、どこの女王かさえ書かなくても届く。だったら、いっそどこの女王でもいいのではないか?
即位60年を記念する「ダイヤモンド・ジュビリー」のお祝いに、提案したいことがある。彼女をヨーロッパの女王に迎えるのだ。
もちろんこんな提案が、次のEU(欧州連合)首脳会議で話し合われることはないだろう。危機的状況にあるスペインの銀行の救済案にすら合意できないヨーロッパの首脳たちが、同じ君主を戴くことでまとまれるはずはない。ヨーロッパの王に名乗りを上げた最後の人物はナポレオンだが、彼についてはいまも多くの批判がある。さらに、政治家に過剰なほど気をつかうエリザベス女王が、そんなことを主張するとは思えない。
それでもこれは魅力的なアイデアだ。EUには全体を一つにまとめられる指導者が存在しない。今のところEUが頼りにできるのは、星が連なる欧州旗と官僚たちの交渉の歴史くらいだ。そんなものに、戴冠の儀式を経た国王に対するような愛着を抱くことはできない。
英王室も元はドイツ系、女王の夫はギリシャ系
現在のイギリス王室は元をたどればドイツ系の血筋であり、エリザベス女王の夫はギリシャ王家の出身。彼女が全ヨーロッパの王位に就くのに障害は少なそうだ。言葉の問題もない。フランスびいきの人々には申し訳ないが、英語はすでに共通語となっている。エリザベス女王の存在が、それぞれの国の国家主権を脅かすこともない。彼女は英連邦15カ国の女王でもある。
彼女がヨーロッパ女王になれば、政治的にも世界に恩恵をもたらすだろう。アメリカ人はイギリス王室には強い関心を持っているが、EUにはさほど興味がない。だがもしヨーロッパが、歴史と威厳を備えた女王を戴くよういなれば、アメリカ人も敬意を払うようになる。EUを懐疑的にみるイギリス人も、自分たちの女王が君主になるなら好意的になるだろう。
問題がないこともない。まず、数少なくなったイギリス以外のヨーロッパの王家は、イギリス王室より格下に扱われるのを嫌がるだろう。
それでもイギリス王室は、全ヨーロッパの王室となるにふさわしい。今回の即位60年祝賀行事を見てもわかるように、彼らほど見事に民主主義と王室らしい荘厳さを兼ね備えた存在はない。昨年のウィリアム王子とキャサリン妃のロイヤルウェディングだって、頑固な共和主義を除けば、ヨーロッパ中の人々が熱狂していたではないか。
© 2012, Slate