東シナ海に浮かぶ中韓の大きな火種
暗礁をめぐる対立から浮かび上がるのは水面下で進む2大経済大国の軍拡競争だ
笑顔の下で 東シナ海の資源を巡る紛争は中韓の間にもある(5月13日、日中韓サミットで顔をそろえた3カ国首脳) CDIC-Reuters
1900年、イギリス人は東シナ海で小さな暗礁を発見し、「ソコトラ岩」と名付けた。この暗礁は今、韓国では「離於島」と呼ばれ、中国では「蘇岩礁」という名で呼ばれている。
最も近い韓国の領土まで149キロ、中国からは247キロも離れた暗礁など、通常なら議論の種になるはずがない。だがここは、アジアの経済大国であり軍事大国でもある2つの国の間の大きな火種となる可能性をはらんでいる。
韓国の外務省は3月12日、駐韓中国大使を呼び、数日前の中国国家海洋局高官の発言について説明を求めた。この高官は「蘇岩礁は中国の管轄海域にある」とし、中国の艦船が定期的にこの海域をパトロールしており、この岩が中国側に属することは明らかだと述べたのだ。
これを受けて韓国の李明白(イ・ミョンバク)大統領は、ソコトラ岩は「当然のことながら韓国側の管轄海域に入っている」と記者会見で述べた。李はまた、ソコトラ岩が中国よりも韓国に近い場所にあることを指摘した。
問題の根っこにあるのは、排他的経済水域(EEZ)の境界画定をめぐる中韓の対立だ。ソコトラ岩は、双方が主張するEEZが重なり合う場所にある。
EEZとは国連海洋法条約に基づき、沿岸国が天然資源の利用などで排他的な管轄権を持つ水域で、沿岸から約370キロの範囲を指す。だが同条約では、水面から頭を出していない暗礁は領土としては扱われない。
なのにはるか沖合の小さな岩をめぐって、中韓が対立しているのはなぜなのか。
この海域には石油や鉱物といった地下資源が眠っている可能性がある上、ソコトラ問題は東シナ海を舞台にした両国の政治的・軍事的な動きとも切っても切れない関係にあるのだ。
韓国は東シナ海における海軍力を拡大している。例えば済州島では大型の海軍基地を造る計画が進んでいる。この計画の第一の動機は中国に対抗するため、というのが一般的な見方だ。
韓国はソコトラ岩の管轄権を主張する材料として、そして軍事衝突の際の足場とするために、ソコトラ岩周辺や中国により近い海域における軍事的プレゼンスを拡大したいと考えている。済州島に基地を造らなければ、韓国海軍は船で9時間ほど北にいったところにある仁川を拠点に活動しなければならなくなる。
基地建設に対しては、環境保護の観点から反対運動も起きており、抗議活動で多数の逮捕者も出ている。基地の設計や施工をめぐる問題点も指摘されており、政府は今月の総選挙を前に(そして中国のソコトラ岩周辺海域の管轄権主張を受けて)建設を急いだようだ。韓国は統合地域ミサイル防衛システムの構築も進めているが、これも中国を念頭に置いたものとみられている。
一方の中国は、経済成長を遂げて国際社会における存在感を強める傍ら、海軍の増強を進めてきた。だがソコトラ岩周辺海域で海軍力を増強すれば、韓国との軍拡競争を引き起こしかねない。
中国の10年度の国防予算は公式発表では780億ドルだが、その3分の1以上が海軍向けと言う専門家もいる。中国海軍は特に南シナ海に高い関心を寄せており、近年、この海域におけるプレゼンスを高めている。南シナ海は多くの船が行き交う海域でもあり、台湾は自国の一部であると主張する中国にとっては戦術的な重要性も高い。
加えて中国は、海南島の亜竜湾に潜水艦の基地を建設。これにより、中国海軍は南シナ海全域で迅速に潜水艦を動かせるようになった。