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中国政治

薄煕来の放蕩息子と英国人怪死の「接点」

「お飾り白人」の不審死で明るみに出た中国特権階級の傲岸不遜と名門一族の黒い影

2012年5月10日(木)15時20分
メリンダ・リウ(北京支局長)

中国共産党八大長老の1人である父・薄一波の遺影の前に立つ薄煕来(右)と息子の薄瓜瓜(07年)China Photos/Getty Images

「火釜」と称される灼熱の街、重慶をめぐる政治スキャンダルが新たな展開を見せた。イギリス外務省は3月末、中国の重慶市で死亡したイギリス人ニール・ヘイウッドの死因について、中国政府に詳しい調査を要請した。ヘイウッドは重慶市の共産党委員会書記を解任された薄熙来(ボー・シーライ)の妻子と知り合いだったとされる人物だ。

 ヘイウッドが重慶市のホテルで死亡しているのが発見されたのは昨年11月のこと。地元の警察当局は、死因を「アルコールの過剰摂取」と断定し、検死もせずに遺体を火葬してしまった。しかしヘイウッドは禁酒していたとされ、在中イギリス人の間では、中国当局に詳しい調査を求めるべきだと大使館に迫る声が高まっていた。

 薄の解任をめぐっては、権力闘争説や陰謀説などさまざまな臆測が取り沙汰されてきた。それがようやく「薄は共産党内の『出るくい』として打たれたのだ」という説に落ち着きかけたところで、薄一家と交流のあった外国人の不審死が明るみに出て、新たな臆測が広がっている。

 少し事実を整理しておこう。ヘイウッドは中国在住のビジネスマン(妻は中国人)で、重慶出張中の11月に死亡(当時41歳)。今年2月、薄の腹心とみられていた王立軍(ワン・リーチュン)重慶市副市長(前公安局長)が、アメリカ総領事館に政治的庇護を求めたが失敗。王は中国当局に拘束され、現在取り調べを受けている。

 3月半ば、全国人民代表大会(全人代)閉幕後の記者会見で、温家宝(ウエン・チアパオ)首相が薄の批判とも取れる発言をし、その翌日薄の解任が発表された。その直後、英政府はヘイウッドの死因について中国政府に調査を要請した。

 ヘイウッドが薄の息子・簿瓜瓜(ボー・クワクワ)(24)と親交があったことはよく知られている。2人は共にイギリスの名門パブリックスクールであるハロー校の卒業生だ。しかしヘイウッドと薄一家がどういう関係だったのかは、はっきりしない。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は匿名の人物の話として、王はヘイウッドが毒殺されたことを薄に報告し、その直後に薄が腹心だった王とたもとを分かったと伝えている。ヘイウッドは、薄の妻で弁護士の谷開来(クー・カイライ)と仕事上対立していたらしい。

 ヘイウッドの妻は大連の有力一族の出身で、身なりもマナーも完璧な上に、中国語を話すことができた。そういう人材が社内にいれば格好がつくし都合がいいという理由で、中国の多くの企業はヘイウッドのような人物を雇いたがる。「お飾り白人さ」と、あるイギリス人は自嘲気味に語る。ヘイウッドは中国人経営者にイギリスの慣習を説明し、会合をセッティングし、「メンツ」を保ってやる世話役だったという者もいる。

 瓜瓜が英国留学するとき、ヘイウッドが世話をしたという指摘もある。「ニールは薄家と知り合いだと、さりげなく言っていた」と、ヘイウッドの大連時代の友人は言う(薄煕来は93〜01年まで大連市長だった)。

 中国在住のハロー校卒業生は、「(ヘイウッドが)瓜瓜の留学の世話をしたというのは、人づてに聞いたことがある」と語った。ただし「外国人の場合は試験がさほど難しくない」から、ヘイウッドが大きな役割を果たしたとは思えないという。

フェラーリでデートに

 多くの話によれば、瓜瓜はハロー時代はまじめだったが、オックスフォード大学に進学して、はじけてしまったらしい。金遣いが荒くパーティーに通う姿は写真に撮られてネット上に出回った。俳優ジャッキー・チェンをオックスフォードに招いた写真や、共産党長老の陳雲(チェン・ユィン)の孫娘・陳暁丹(チェン・シアオタン)と護衛付きでチベットを旅行した写真もある。

 こうした特権階級子弟の派手な暮らしは、一般市民の間で妬みを生み、共産党中央政治局のメンバー(薄煕来もその1人だ)の眉をひそめさせた。もちろん「課外活動」は、瓜瓜自身のマイナスにもなった。成績不振でオックスフォードを停学処分になったのだ。このとき瓜瓜に便宜を図ってやるよう、中国当局と西側の財界人の両方からオックスフォードに働き掛けがあったとされる。

 ヘイウッドと瓜瓜はそれなりに親しい関係で、イギリスと中国の両方で会う機会をつくっていたらしい。ヘイウッドは「家族思いの楽天的な男で、ヨットなどシンプルな娯楽が好きだった」と、大連でヘイウッドの知り合いだったという人物は言う。

 2人の間にはスポーツカーという共通の趣味もあったようだ。あるときタキシードを着込んだ瓜瓜が、フェラーリで北京のアメリカ大使公邸に乗りつけ、ジョン・ハンツマン大使(当時)の娘を夕食に誘い出したというエピソードもよく知られている。

 それがよほど気になったのだろうか。薄煕来は3月の全人代会期中に開いた記者会見で、瓜瓜はフェラーリを運転したことなどないとし、噂は「まったくのでたらめだ!」と全面的に否定。瓜瓜の留学費用もすべて奨学金で賄われていると説明した。

 ヘイウッドはここ数年、イギリスの高級車アストン・マーチンの北京販売代理店のコンサルティングをしていたほか、複数の顧客の仕事をしていたようだ。MI6(英国情報部国外部門)の元職員が設立した戦略的情報会社ハクルートでも、コンサルタントの仕事をしていた。

 ハクルートは企業コンサルティングや信用調査などの業務を行っているが、実務を担当するのは契約ベースで雇った覆面調査官であることが多い。「(ヘイウッドが)情報機関とつながりがあったとは思えない」と、過去10年来ヘイウッドの友人だというイギリス人は言う。「ニールは、物事を何かと誇張しがちだったのではないか」

 ヘイウッドがスパイ活動に関わっていなかったとしても、元スパイとわずかでも付き合いがあったなら──そういった人物と知り合いであることは、共産党政治局員の薄煕来にとって大きなマイナスになるだろう。

独りぼっちで死んだ男

 ヘイウッドを知るある人物は、彼が重慶で独りぼっちで死んだことに同情している。「彼は中国で自分のネットワークを駆使しながら、フリーランスで仕事をしている多くの外国人の1人だった。もしかしたら小さなビジネスを営みながら、自分でも正体の分からない何かにのみ込まれていくプレッシャーが、彼の健康をむしばみ、死に至らしめたのかもしれない」

 ヘイウッドの死因は謎のままだが、瓜瓜の近況はよく知られている。オックスフォードで放蕩の限りを尽くしたにもかかわらず、今は西側のもう1つの最高学府、ハーバード大学ケネディ行政大学院で学んでいるのだ。

 どうやら今回はフェラーリを乗り回したりはしていないらしい。ハーバード関係筋によると、最近いくつかの授業に欠席しているという話だが。

[2012年4月11日号掲載]

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