最新記事

健康

鬱には薬よりウォーキングが効く?

手軽で副作用のないウォーキングで、鬱の症状が改善されることが明らかに

2012年4月18日(水)17時49分
エイミー・シルバースタイン

薬に頼らず 抗鬱剤には多かれ少なかれ副作用がある Darren Staples-Reuters

 ウォーキングという単純な運動に「鬱を改善する」効果があるかもしれない。スコットランドで行われた研究で、そんな頼もしい調査結果が発表された。運動が鬱の治療に役立つことは以前から知られていたが、ウォーキングのような軽い運動にもその効果があるかどうかは、それほど明らかになっていなかった。

 今回、英スターリング大学の研究者たちは、ウォーキングと鬱に関する過去の研究結果を再調査。その結果、ウォーキングがメンタルヘルスにおいて重要な役割を果たすことを示す研究結果をこれまでに8つ探し出した。この8つの研究では、合計341人が調査対象となっていた。

 今回発表されたのは、「一定の割合の人々に対して、ウォーキングが鬱症状の改善に大きな効果をもたらすことが統計的に明らかになった」ということだ。

 鬱の治療にどの程度のウォーキングが必要なのかは明確になっていないが、「ウォーキングは多くの人々が手軽に実行できるという利点がある」と、スターリング大学の研究者たちは言う。

 運動が鬱を改善させるシステムは明らかになっていない。だが運動によって心配事を忘れて気を紛らせたり、自分自身をコントロールする感覚を養ったり、リラックスして「快感ホルモン」の分泌が促されたりすることが考えられると、精神科治療における運動の効果を研究する英エクセター大学のエイドリアン・テイラーは言う。

 よりよいメンタルヘルスを目指す慈善団体「マインド」の独自研究によれば、屋外で時間を過ごすだけでも人々の精神状態を改善させる効果があるという。

 さらにウォーキングには、薬物治療のような副作用もない。最近では、妊婦が抗鬱剤を使用することの是非について専門家の間で議論になることが多かった。妊娠中の抗鬱剤服用と、出産後の子供の自閉症や高血圧症状との関連を示す研究結果も出ている。

「医薬品は通常、市場に出回る前に妊婦を対象にした試験は行われない」と、カナダ・モントリオール大学付属の研究センターで研究員を務めるアニク・ベラールは言う。「市場に出る時点で、それが妊婦にどんな影響を及ぼすかといった臨床データはまったくない」

 2004年には、抗鬱剤と子供の自殺率の関連性を示す情報を公表しなかったとして、米食品医薬品局が非難を浴びた。また、高齢者の場合は抗鬱剤の服用が転倒事故の原因になるとの報告もある。

 ウォーキングに鬱を改善する効果があるなら、そんなリスクとは無縁で治療が続けられる。「ウォーキングのよさは何より、誰もがやっているという点だ」と、テイラーは言う。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中