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中東エジプト「民主的選挙」の腐った現実
ムバラク政権崩壊後、初めての総選挙が迫っているが、闇市場では票の「バルク販売」が盛んに行われ、外国からの選挙監視団もシャットアウトされている
真の民主化は? エジプトの選挙で躍進が見込まれるイスラム原理主義組織「ムスリム同砲団」の支持者たち(カイロ、11月16日) Mohamed Abd El-Ghany-Reuters
ムバラク政権崩壊後、初めての人民議会選挙を11月28日に控えるエジプトでは、懸念すべき兆候が表れている。「自由で公正」な選挙の実施に期待が集まっていたが、実際にはムバラク時代の選挙体質が今も健在のようだ。
首都カイロ北部郊外で中流層の多い選挙区から出馬するリベラル系候補のエイミー・ハムザウィは、ムバラク時代の「汚職システム」が残っていると語る。闇市場ではいまだに票の売買が盛んに行われ、どんな候補でもまとまった数の票を手に入れられる――ハムザウィは先週、地元紙にそう書いた。
ハムザウィと同じ選挙区から初出馬する若手候補のマフムード・サレムは、こうした闇市場の存在を目の当たりにした。「最近は、数千単位で票を買わないかといった話が舞い込んでくるようになった。得票を操作してやるとか、誰かをボコボコにしてやろうかと持ち掛けてくる者もいる」と、サレムは明かす。彼は、不正に手を染めて当選するくらいなら出馬しないと語った。
警察官の不在で無法地帯化する恐れも
軍最高評議会は民政移管の最初のステップとして、「自由で公正な」選挙を実施すると繰り返し約束してきた。しかし外国からの選挙監視団は、ほぼ完全にシャットアウトされている。エジプトの主権に対する侮辱だというのが軍最高評議会側の主張だが、国内の選挙監視グループに対しても、不正が発覚した際に介入する権限は事実上認めていないという。
エジプトの選挙委員会が最終的な候補者リストを公表するのが遅れに遅れていることも、国民の不信感をあおっている。投票日が迫っているというのに、カイロの市民の多くはいまだに自分の選挙区から誰が立候補するのかさえ分からない状態だ。
「選挙を楽観していた国民でさえ、今回のやり方には驚いている」と、エジプトの人権派弁護士ネガド・エルボラは言う。
さらに、治安も大きな懸念材料だ。1月の民主革命後に逃亡した警察官たちは、今もまだ戻っていない。先月には、全国で警察官1万人以上が賃金と社会保障の向上を求めてストライキを起こした。要求が満たされない場合は、投票所の警備を放棄すると脅す者もいた。
「今回の選挙でエジプトが直面する最大の問題は、安全性だ。このままでは危険な事態になりかねない」と、エジプト北部の都市タンタで判事を務めるアミール・アデル・ラムジーは言う。
(GlobalPost.com特約)