最新記事

サッカー

服装の悲劇に泣いたイランのなでしこ

2011年9月7日(水)15時16分
ババク・デガンピシェ(ベイルート支局長)

 実は、FIFAとイラン・サッカー協会がユニホームをめぐって対立するのは、今回が初めてではない。昨年のユースオリンピックでも、当初はイランの出場が阻まれた。当時は結局、イランがユニホームを修正することで出場を許された。「あのときは私たちが折れたのだから、今度は(FIFAが)妥協する番」だと、カリミは言う。

 しかもFIFAは、3月のオリンピック1次予選では修正版のユニフォームで出場を認めていた。それだけに、今回の判断は大きな衝撃を与えた。「サッカーはすべての人のものだと、FIFAは言う」と、アルダランは言う。「けれど、イスラム教徒の女性にも門戸が開かれているのか疑問に感じる」

 今回の事件にはサッカー以外の要因が関係しているとみる向きもある。問題の試合でマッチコミッショナー(試合を監督・運営する現場の最高責任者)を務めたバーレーン人が政治的な理由でイランをおとしめようとしたと、イラン・サッカー協会のアリ・カファシアン会長は言う。イランがバーレーンでの反体制による抗議活動を支援していることが影響したというのだ。

決着の見通しは立たず

 しかしイラン代表チームの面々によれば、マッチコミッショナーは心から同情してくれたという。むしろ、ジョセフ・ブラッターFIFA会長の意向が働いたとの見方が多い。ブラッターは過去にも、女子は「もっと女性らしいユニホーム」と「もっとぴちぴちのショートパンツ」を着るべきだと、性差別的な発言をしたことがある。

 FIFAはユニホーム事件を大問題と見なさない姿勢を取っているが、動揺していることは間違いない。「非常に微妙な問題だ」と、ある広報担当者は言う(この問題について発言したことを知られたくないとの理由で匿名を希望)。

 今回の騒動は、女子サッカー界最大のイベントであるワールドカップ(ドイツ大会)の開幕直前に持ち上がった。カリミは試合のテレビ中継を食い入るように見た。「あの場に立って、このユニホームでもプレーに支障がないと実証したかった」

 現時点で、ユニホーム論争に決着がつく見通しは立っていない。双方ともに引き下がるつもりはなさそうだ。
アルダランは深く落胆しているが、せめて明るい材料を見つけようと努めている。「女にもサッカーができるんだって、イランの男たちにも分かったことは、少なくとも朗報ね」

[2011年8月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加 ミサイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中