ドイツによみがえる「反原発」魂の正体
原子炉全廃に向けて突き進むエコ国家の猛烈な「原発アレルギー」の理由とは
国民性の表れ? ドイツでは80年代から反核運動が根強く行われてきた(ベルリン、2011年3月26日) Thomas Peter-Reuters
世界で原子力発電への認識が揺らぐなか、あくまでも原発にノーと言い続ける国がある。ドイツだ。
2002年、ドイツは「脱原発法」を制定。この法律に基づいて、21年までに国内の原子炉をすべて閉鎖することになっている。05年に就任したアンゲラ・メルケル首相も、この法律を廃止するつもりはないと約束している。「原子力発電は前世紀のテクノロジー」だと、ジグマル・ガブリエル環境相は言う。
脱原発は容易な道ではない。現在ドイツは、総発電量の28%を原子力に依存している。原発を廃止すれば、最近強硬な姿勢を強めているロシアからのエネルギー輸入にますます依存せざるをえなくなる。
ほかの国々では、環境保護派の間でも温室効果ガスを排出しない原子力発電に前向きな人が少なくない。テクノロジーの進歩によって、チェルノブイリのような炉心溶融事故の起きる危険性が大幅に減ったことも追い風になった。
原点は80年代の反核運動
それでも、ドイツ国民の信念は揺るがない。「論理的な主張でも耳を貸してもらえない」と、原子力発電業界のロビイスト、クリスチャン・ウォズマンは言う。
かつてこの国が原子力先進国だったのが嘘のようだ。ドイツ政府は、原子力研究への助成金の拠出をほぼ停止。エレクトロニクス大手のシーメンスの原子力部門は、フランスのアレバ社の傘下に移管された。130億ドルを投じて建設される国際熱核融合実験炉(ITER)は、プロジェクト発祥の国であるドイツではなく、フランスにつくられることになった。
なぜ、それほどまで反原発感情が強いのか。40〜50代のドイツ人の多くにとって、80年代の反核デモはいわば大人への通過儀礼だった。ヨーロッパ最強の環境政党であるドイツの「緑の党」の結党の土台になったのも、反核運動だった。その緑の党に票をごっそり奪われた社会民主党(SPD)も、かなり前から原発廃止を主張している。
環境汚染へのすさまじい恐怖心
ドイツ世論調査研究所の最近の調査によれば、今や国民の62%が脱原発法の存続ないし強化を望んでいる。保守政党のキリスト教民主同盟(CDU)も、原発業界寄りの姿勢を修正しはじめた。
環境保護意識の強いほかのヨーロッパの国と比べても、ドイツの原発嫌いは際立っている。スイスは、原発建設の凍結措置を国民投票で否決。ベルギーとスウェーデンは、ドイツ型の原発廃止法を見直しはじめている。
80年代に騒がれた「森林の死」に始まり、最近の電磁波やマイクロダスト(非常に細かいちり)にいたるまで、環境汚染による健康被害に強い恐怖をいだくのは、ドイツの国民性なのかもしれない。心理学者によれば、とくに若い世代には、環境汚染を恐れるあまり、片頭痛や鬱症状に襲われる人も少なくないという。
すさまじい恐怖心。ドイツの原発業界にとって、巻き返しは容易ではない。
[2007年1月 3日号掲載]
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